朝、姫川はいつも通りの時間に目を覚ました。今日は休日だったが、せっかく恋人が泊まりに来ているのだから朝からイチャイチャしたい。そう思った姫川は顔を洗った後、まだ寝ている神崎を軽く揺すって声をかけた。

「神崎ー」
「・・・んぅ」
「かーんーざーきー」
「うー・・・」

きっと不機嫌に睨まれるんだろうな、そう苦笑しながらも姫川は神崎に声をかける。すると瞼をこすりながら神崎は起き上がった。思った通り、ムスッとした表情をしている。

「おはよう、神崎」
「・・・・・・はよ」

頭を撫でながら挨拶をすると、うとうととしながらも挨拶が返ってくる。

「顔洗ってこいよ。・・・朝はパンでいいよな」
「・・・おう」

頷いてふらふらと寝室を出て行く恋人を見送ってから、姫川も寝室を出てキッチンへ向かった。お互い料理はほとんどできないがパンを焼くことくらいはできる。神崎は朝が異様に弱いので、いつも朝食を用意するのは姫川だった。
机に皿を並べていると、洗面所から神崎が出て来た。まだ眠そうな様子が微笑ましいと姫川は頬を緩めた。

「用意できたぞ」
「んー」
「神崎って、本当朝に弱いよなぁ」

そう言って笑うと、神崎はムッと眉を顰めた。人相が悪いのはいつものことだが、どこか拗ねた様な表情に見えて姫川は首を傾げた。

「神崎?」
「・・・・・・」

再度声をかけると、更に眉を顰められた。朝だから不機嫌というわけでもなさそうだ。

「おい、どうしたんだよ」
「・・・・・・だよ」
「あ?」
「・・・何で名前で呼ばないんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」

神崎の発言に、姫川は無言で固まった。これが漫画なら、姫川の頭上に大量のクエスチョンマークが浮かんでいたことだろう。ちっとも反応を返さない相手に、神崎はまた拗ねた様に眉を顰めた。

「え、急にどうしたんだよ」
「・・・・・・」
「・・・か、神崎?」
「・・・・・・」

今度はグスッとしょげた表情をするので、姫川は慌てて駆け寄った。思わず頭を撫でたが、振り払われないことに驚く。

「おいおい」
「・・・呼べ」
「えー、と・・・」

上目遣いで睨まれ、姫川は考える。

(マジで今日はどうしたんだ、神崎。急に名前で読んで欲しいとか。今までそんなの言ったことなかったってのに。いや、かわいいけど。こんな拗ねた神崎もしょげた神崎も見たことねーぞ。てかちょっと泣きそうじゃね?いや、かわいいけどさ。てか、けっこう前になるけど名前で呼んだら殴られたんだが・・・。どういう風の吹き回しだ?かわいいけど!)



「姫川・・・?」

黙ったっきり、真剣な顔をしたりニヤけたりする姫川に、神崎は首を傾げた。

「あ、いや!何でもねぇ」
「ふうん?」
「・・・そりよりさぁ、神崎」
「んだよ」
「お前が俺のことも名前で呼んでくれるなら、俺もお前を名前で呼んでもいいけど」

怒鳴られるか、と思いつつの提案。神崎は少し黙ると、右手できゅっと姫川の服を掴んだ。

「・・・た、たつや」
「・・・・・・っ!!?」

上目遣いと少し赤く染まった頬で、小さく小さく呟かれたその言葉に姫川は思わず抱きついた。

「はじめぇぇええええ!!!」
「うわっ!?」

姫川はぎゅうぎゅうとすごい力で抱き締めながら、頬ずりをする。いつもなら真っ赤になりながら姫川を殴り飛ばすか怒鳴るかする神崎は、驚きはしたものの大人しく抱き締められている。むしろ姫川の肩口に自分の額を預けるという、いつもなら奇行とも言える行動に出た。

「何なの今日!かわいすぎんだろ!!」
「べ、別にいいだろっ」
「悪いとか言ってねーだろ!つーか良すぎてやべぇよ!!」

かわいいかわいいと連呼しながら、姫川は神崎を撫でたりキスをしたりと朝食を無視して騒いだ。


















さんざん無視した朝食を食べ始める頃には、すっかりパンは冷めていた。

「あー、パン冷めちまったな」

パンを食べながら姫川が苦笑した。それに神崎も頷きつつ呟く。

「ん。でも・・・美味い」
「そうかぁ?焼き立てのが美味いだろ。・・・もう一回焼くか?」
「・・・竜也が作ったのなら、何でも美味い」
「・・・・・・」

もふもふとパンを食べ続ける神崎を、姫川は無言で見つめる。いつもとは違い過ぎる恋人の様子に熱でもあるのではと思ったが、先程抱き締めた時に熱は感じなかった。
頬を赤く染めてパンを食べる神崎に、姫川は何とか返事を返した。

「焼いただけだけどな・・・」

ポツリとそれだけ呟いた。いつもと違う神崎に、思わず姫川も照れてしまう。
常日頃からツンデレな所がかわいいかわいいと思っていたが、デレッデレな神崎の破壊力も半端ない。今日が休日で本当に良かったと、姫川は内心ガッツポーズをした。もし平日だったら、『神崎がデレ期なので休みます』と学校へ連絡している所だ。

「飯食ったらどうする?」
「んー・・・」
「どっか出かけるか?」
「・・・出かけるのは、イヤだ」
「?」
「今日は、部屋でゆっくりしたい・・・」
「あー、じゃあ映画でも見るか」
「おう」

嬉しそうに頷く神崎に姫川の頬も緩む。

「こないだ借りたアクションでいいか?」
「竜也と見るなら何でもいい」
「・・・おー」


(かわいいんだよ!ちくしょおおおお!!!)











「ネットで評価高かっただけあるな。けっこう面白いじゃん」
「そうだな」
「今度これの続編やるらしいぜ?観に行くか?」
「行く!」

神崎はいつもよりキラキラとした目で即答した。
二人はソファに座りながら映画を観ているのだが、その座り方がまたいつもと違った。いつもならソファに二人並んで座るのだが、今日は神崎が姫川の膝で映画を観ている。ツンデレ時なら絶対有り得ない光景だ。姫川はこれ幸いと後ろから神崎の腰を両腕を回し抱き締めた。
項に鼻先を寄せてもキスをしても怒られない。それどころか回された姫川の腕をきゅっと控えめに掴んでくる。もたれ掛ってくる重ささえ愛しいと姫川は神崎をぎゅっと抱き締めた。


「はじめ・・・」
「んー?」
「何で今日はこんな素直なんだ?かわいいから俺は嬉しいけどね」

朝からずっと疑問に思ってたことを訊いてみる。すると、神崎は首を傾げて姫川を振り返った。

「素直?」
「おう」
「・・・?別に、いつもと一緒だろ」

けろっとした調子でそう言う神崎に、姫川はいやいやと内心で首を振った。
いつもの神崎の様子を一からあげていきたいと思ったが、そうすると今の状態が終わりそうなのでぐっと耐える。



「かわいいから、いいか」
「何がだ?」
「んー?何でもねーよ」

そう笑って、自分を見る神崎の頬にキスをした。












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