次の日、朝飯を食い終わり二人でテレビを見ている時だった。
飲み物でも取りに行こうと立ち上がったら、机に置かれていた神崎の携帯が光っているのに気付き教えてやる。

「神崎、携帯光ってんぞ」
「あ?・・・おう」
「俺飲み物取ってくるけど、神崎は?」
「・・・じゃあ、ヨーグルッチ」
「了解」

視界の端で神崎が電話に出ているのが見える。メールじゃないのかと思ったが、盗み聞きする趣味もないので飲み物を取りに冷蔵庫へ向かった。
冷蔵庫のあるキッチンと神崎のいるリビングはそれ程離れているわけではないので聞き耳を立てなくても少しだけ話し声が聞こえてきた。何やら神崎が必死に話しているので、少し不思議に思い首を傾げる。俺はヨーグルッチとミネラルウォーターを持って近付き声をかけた。


「どうした?夏目か城山か?」
「! ひ、ひめか・・・っ」

声をかけると、神崎は過剰なほどに身体をビクつかせ俺を見上げた。その顔は若干青ざめていて俺もどうしたと少し焦る。その時、携帯から聞こえた声に俺の身体も固まった。

「ん、姫川・・・?何だ、お前姫川と居るのか」

携帯から聞こえてきたのは紛れもなく陣野の声だった。何で、陣野が・・・。
俺は思わず立ち尽くした。まさか俺のマンションに居る間に陣野から電話がかかってくるなんて思いもしなかったからだ。いや、それ以上に、陣野から神崎に電話をすること自体がないのではと思っていたくらいだ。



「あ、いや・・・その、」
「・・・とにかく、今、お前は自宅にはいないんだな?」
「あ、あぁ・・・」
「・・・・・・」

俺は、成り行きを見守るしかできなかった。だた、二人の話が終わるまで黙って立ち尽くす。

「なら、仕方ない。・・・切るぞ」
「え!?・・・ちょ、待て、よ。その・・・用事は」
「自宅でないならいい。気にするな」

そう言って、陣野からの電話は切れた。神崎は茫然と携帯を見つめていて、俺は何て声をかけたらいいのか分からなかった。
それでも、いつまでも突っ立ているわけにはいかなかったので、神崎の横に座ってそっと顔を覗きこだ。

「・・・か、んざき」
「・・・・・・・・・・・・」
「悪い。その・・・、夏目か城山かと・・・・・・思って」
「・・・・・・い、や、姫川のせいじゃ・・・ねーから」
「・・・・・・」

訊いてもいいんだろうか。
少し迷ったが、気になるという感情には勝てず電話の内容を訊いてみた。

「あー、陣野は・・・何て?」

神崎は小さく左右に首を振って、ため息をついた。

「わ、かんね」
「・・・・・・」
「いきなり・・・その、電話きて。驚いて、出たら・・・・・・今どこにいる?って」
「・・・おう」
「そんで・・・何て言っていいのか、考えてたら・・・」
「俺の声が入っちまった、ってことか」
「・・・ん」

どうしたものか。自分の軽率さに頭が痛くなった。

「た、ぶん・・・勉強の暇つぶしとか、気紛れ・・・だと思う、けど」
「そう、だな・・・」
「ひ、めかわ・・・の所に泊まること、とか理由とか・・・は、言って、なくて・・・っ」

段々と、神崎の声が震えていく。声だけじゃなくて、身体も小さく震えていた。抱き締めたい、そう思うのに今だけは抱き締めてはいけない気がして、俺は黙って拳を握りしめた。

「・・・じ、のに・・・誤解、され・・・・・・誤解、と、かなきゃ・・・話、を・・・・・・っ」

おろおろと周りを見ながら携帯を握りしめる神崎の肩に、俺はそっと手をおいた。

「俺も、陣野に会ったら・・・誤解しないよう、言っておく」
「・・・・・・あ、ひ、ひめかっ」
「大丈夫だ・・・。陣野なら、説明すりゃ理解するだろ」

別に疚しいことじゃないんだから。そう言って神崎を安心させようと笑った。だが、神崎は俺と携帯を交互に見比べて俯いてしまう。

「神崎?」
「おれ・・・わ、るい・・・・・・姫川、のこと・・・ひで、こと、言って」

途切れ途切れな言葉だったが、どうやら俺に対して罪悪感を抱いているらしかった。そんな必要ねぇのに。
あくまで、今神崎が好きなのは陣野なんだ。俺に対して罪悪感などを抱くことなんてない。それなのに・・・。


「神崎、俺は気にしてねぇよ」

俯く神崎の頭を撫でながら、俺はできるだけ優しい声音で言った。

「大丈夫だって、な?」
「・・・・・・お、う」

頷いた神崎に、俺はよしと笑って見せる。












本当に、何をやっているんだ俺は。

神崎を傷付けないように、守ってやりたかったのに。それなのに。


俺という存在が神崎を傷付けているなんて、笑えない。





情けねぇ。














「ひ、姫川・・・?」

内心、自分の不甲斐なさに落ち込んでいたら、おずおずと神崎が顔を覗き込んできた。その眼は不安そうに揺れていた。

「あ、神崎・・・?」
「その・・・俺、」
「おう?」
「姫川・・・怒ってない?本当、に・・・?」
「・・・・・・」
「あ、いや・・・疑ってるわけ、じゃ」
「・・・怒ってねぇよ。不安にさせてごめんな」
「・・・・・・っ!」

その表情に堪らなくなって、俺はぎゅっと抱きしめていた。

「俺の方こそ、悪い」
「・・・な、んで姫川が」
「俺、お前の邪魔してるな」
「・・・・・・」
「それどころか、俺のせいで落ち込ませたり不安にさせたり・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「本当、何やってんだろうな」

自嘲気味に笑う。
神崎は、俺の腕の中で黙っていたが、少しして小さく首を左右に振った。どうしていいのか分からなくて、それでも何とかしたかった結果だろうが、俺にはそれすら申し訳なくて何も言えなかった。











その日は、お互い電話のことには触れずテレビを見たりゲームをしたりして過ごした。そして夕方、親や家の奴らが帰って来たという連絡を受け神崎は帰り支度をしている。


「姫川、世話になったな」
「いや、こんなん何でもねーよ」
「はは、さんきゅ」

神崎は鞄を持つと玄関へ向かう。俺も取り敢えず玄関まで見送ろうと立ち上がった。

「下まで送るか?」
「いらねーよ。大丈夫だって」
「・・・だな」
「・・・・・・明日、学校でな」
「ああ。・・・その、」
「ん?」
「まず、俺に説明・・・させてくれねーか?」

誰に何の、とは言わなかった。それでも神崎は分かったみたいで静かに頷いた。

「じゃ、また明日」
「おう」

ドアが閉まるのを確認して、俺は大きくため息をついた。
明日、とりあえず陣野の誤解を解かないと・・・な。まぁ、誤解しているかどうかもはっきりしてはいないんだが。

「・・・念のため、俺が神崎のことを、ってのは伏せた方がいいな」


明日のため、今日は早く寝ようと俺は少し早めの晩飯を頼むことにした。
















今回短くてすみません。

でも、こっからいよいよって感じ、です(多分)。
陣野が、どれくらい悪く書けるかにかかってる・・・っ!





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -