神崎は、朝教室に向かう途中の廊下を歩いていた。聖石矢魔に来てから馴染みとなった学校だが、早く母校に帰りたいと小さくため息をついた。その時、コツンと何か爪先に物が当たったのが分かり視線を下に落す。

「んだこりゃ」

そう呟きながら、落ちていた物を拾う。それは小さな御守りだった。

「・・・うーん」

拾い上げて神崎は唸る。キーホルダーなどなら放っておくのだが、御守りとなると考えてしまうのだった。神様なんぞ信じていない神崎だが、持っていた奴の心情を思うと再度廊下に放るのもな、と首を捻る。

「あ゛ー・・・・・・ったく、仕方ねぇ」

そう言って、握った御守りをそのままに教室へ向かった。













教室に入ると、いつも通り夏目と城山が寄って来る。二人の挨拶に答えつつ席に着こうとすると、珍しいことに男鹿が声をかけて来た。


「神崎」
「? 男鹿・・・?」
「神崎、それ」

そう言って男鹿が指さしたのは拾った御守りだった。まさか男鹿のかと似合わなさに神崎は驚くも、廊下で拾ったことを説明した。

「男鹿のだったのか」
「あ?いや・・・俺んじゃなくて」
「?」
「なぁ、古市」
「何だよ」

男鹿は古市を呼ぶと神崎が持っている御守りを再度指さす。

「これ、三木が似たようなの持ってなかったか?」
「ん?・・・あ、あ!持ってたな、そういや」
「・・・・・・三木?」

一瞬考えて、六騎聖に居たなと思い出した。

「じゃ、男鹿渡してやれよ」

そう言って男鹿に御守りを押し付けると首を傾げながら押し返された。

「何でだよ」
「てめえ、三木と仲良いんだろ」
「・・・・・・良いって言うか、うーん」
「てか、こっちに呼んだらいいじゃん」

神崎と男鹿のやり取りを見て、古市は三木をメールで呼び出した。それを見て、神崎は渋い顔をする。どうも三木が苦手なのだ。やはり御守りは男鹿に渡してもらおうと思った時、勢いよく教室のドアが開いた。
クラス中の視線がドアに集中する中、何故か呼び出した三木以外の六騎聖も教室に入って来た。思わず、皆ポカンと大口を開けて呆ける。


「僕の御守り、見付けてくれたんだって?」

余程大切な物だったのか、三木が勢いよく神崎に駆け寄ってくる。それに押されつつ、神崎は頷きながら御守りを差し出した。三木は御守りを確認すると、神崎の掌ごとぎゅっと強く握った。

「!?」


それを見て、今まで黙って見ていた石矢魔の面々、神崎組はもちろん東条一派に男鹿、姫川が無言で立ち上がった。その光景も十分異様な物で、神崎は六騎聖と夏目達を交互に見る。
そんな神崎を無視して、夏目が三木に話しかけた。

「ちょーっと近いんじゃないかなぁ」
「そうですか?」

暫く無言で睨み合う二人だったが、夏目の殺気を感じ取り出馬が間に入って三木を神崎から離した。それに神崎もホッとする。男に手を握られ続けているのはかなりつらい状態だった。

「ま、ま、落ち着いて」

軽い口調で出馬が言う。夏目も一旦殺気を抑え、神崎を六騎聖から引き離すように神崎を引っ張った。余裕な笑みでそれを見て、出馬は三木の肩をポンポンと叩く。

「ほら、自分・・・神崎に言うことあるやろ?」
「あ、はい・・・っ」

出馬に促され、三木は神崎に向き合うといつもの態度とは違いどこかオドオドとした様子で話し出した。

「え、と・・・・・・その」
「・・・・・・」
「お、御守り・・・とっても大事な物だったんだ。・・・ありがとう」
「・・・あ、ああ」
「うん。だから・・・その、お礼に・・・・・・これを」
「・・・・・・・・・・・・」

そう言って差し出されたのは遊園地のチケットだった。神崎だけでなく、他の石矢魔のメンバーも固まる。

「・・・え、と?」

口の端を引きつらせながら、神崎は三木を見た。すると、三木は頬を少し赤く染める。それに神崎は何故だと冷や汗をかいた。

「これ、遊園地のチケットなんだけど・・・」
「み、見れば分かる」
「一緒に行きませんか?・・・・・・六騎聖の皆と」

最後の言葉で神崎は一気に三木から後ずさった。思わず城山の後ろに隠れる。

「いやいやいやいや!」
「・・・遊園地は嫌いですか?」
「そう言う問題じゃなくね!?・・・つーか、礼ならヨーグルッチで、」

神崎が言い終わる前に、夏目と姫川、それに東条と男鹿がずいっと神崎の前に並んだ。そしてギロリと六騎聖を睨む。

「三木とか言ったよねぇ。別にお礼ってんなら、一緒に遊園地行く必要なんてないでしょ?」
「そうだぞ、チケットだけ寄こせ」
「つーか、何で六騎聖全員となんだよ!」

夏目、東条、姫川が六騎聖に対抗するように言うと、静がため息をつきながら手を上げた。

「ああ、私は行かないわよ。てゆーか、ここに来たのだってヒートアップし過ぎないために、だし」

念のためといった様子の発言を、取り敢えず全員で流す。場の空気のためだ。



「別にええやろ?お礼ってのは、気持ちの問題なんやし」
「当の神崎くんが嫌がってるじゃない」
「照れ隠しやって。神崎はツンデレなんやろ?」
「全部が全部ツンデレで片付くと思うなよ」

睨み合う六騎聖と石矢魔メンバー。それを城山の後ろに隠れながら神崎は黙って見る。

(何だ、この状況・・・)

意味の分からない現状に鳥肌を立てつつ、冷静になろうと深呼吸をする。そして決してよくはない頭で何故こうなったのかを考えてみた。

(あ、ダメだ。分かんねー)

やはり理解することはできず、暫く黙って様子を見ることにした。


「つーか、遊園地って何だ遊園地って。デート気分か、てめえらコノヤロー」

男鹿の発言に、三木が小さく声を上げた。

「良かったら、男鹿と古市くんも一緒に・・・っ」
「お断りします」

即行男鹿に拒否されて、三木は小さく項垂れた。

「てか、遊園地なんて混むし並ぶしいいことねーだろ。逆に神崎疲れさせるだけだと思うね」

姫川の発言に、それならばとアレックスが一歩前に出る。

「なら、オペラはどうデスか?」
「・・・・・・いや、興味ねーです」

聞き慣れなさ過ぎる単語に、神崎は思わず敬語になって断った。アレックスはショックのあまり膝から崩れ落ちる。

「アレックスー!」
「俺そこまでのこと言った!?」

アレックスを支えながら、今度は郷が神崎に叫ぶ。

「神崎!!俺達と一緒にサバイバ」
「それは絶対に嫌だ」

全て言い終わる前に拒否されて、郷もアレックスと並ぶように崩れた。
神崎は何なのこいつらという目でそれを見下ろす。

「つーかだ、遊園地だったら俺と行けば顔パスで乗り放題なわけで」
「姫ちゃん、その話はもういいよ」

未だ遊園地についてぐだぐだ言っている姫川を夏目が軽く諌める。

「てか、神崎はヨーグルッチでいいって言ってるぞ?」

東条の言葉に、神崎はうんうんと頷く。だが、三木は頭を振った。

「いや、そんなんじゃ僕の気持ちが収まらないんだ!」
「てめえ、ヨーグルッチバカにしてんのか!」
「え?いや、そう言うわけじゃ・・・。あ、なら!遊園地でヨーグルッチ飲みましょう!」
「何で頑なに遊園地を推してくるんだよ!」
「お願いします!今度の土日に、是非!」
「日にちまで決められてる・・・!?」

神崎は三木、と言うか六騎聖に一種の恐怖にも似た感情を抱いていた。何故こうも自分に固執するのかと、ため息をつきたい気分だ。


「てか、神崎は今度の土日暇なのか?」

男鹿の唐突な質問に、神崎は間抜けな声を出すも頷いた。

「マジか!ならこいつらと遊園地行くより、俺ん家来いよ。もちろん二葉いいし」
「おいおい男鹿、何どさくさに紛れてんだよ。それだったら、俺だってバイトねーし・・・」

ケンカになりそうな男鹿と東条を、夏目と姫川が慌てて止める。

「ちょっと!そこ!勝手な発言しないの!」
「つーかてめえら、ちょっとこっち来い」

夏目に怒られ、しぶしぶと男鹿と東条は言い合いを止めた。そして姫川に呼ばれ、四人耳打ちができる距離まで集まる。

「いいか、あっちは三木個人でなく六騎聖全員で結託してきてんだ」
「うんうん」
「あ?」
「それがどうかしたのか?」

いまいち分かっていない男鹿と東条にため息をつき、姫川は話しを続ける。

「まあ、神崎を独占してーってのは分からんでもねえ。だが、今は俺達個人で争ってる場合じゃねーんだ」
「そうだよ、二人共。俺達までケンカしてたら、あっちに神崎くん持って行かれちゃうよ!」
「何!」
「それは困るな」
「なら、こっちも一時休戦して、石矢魔で神崎を守るんだ」

姫川の言葉に三人は力強く頷く。話の内容こそ聞こえなかったが、その様子に六騎聖は首を傾げ、神崎は気持ちの悪い物を見る目で見ていた。











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