好きな人には幸せになって欲しいものだ。
相手だけでなく、自分も一緒に幸せになれるなら、なお良い。

だけど、俺達にはそれは叶わない。





「古市ー!」

男鹿が俺を呼ぶ声が聞こえる。コロッケ奢れとか、ゲームやろうとか、多分そんな用事だろう。男鹿は、とにかく俺にべったりなのだ。
自惚れでは、なく。
そして、俺はそんな男鹿が好きで(恋愛感情として)、男鹿も俺のことを好いてくれている。
これも、自惚れではなく。

男鹿は俺の腕を掴んで、はやくはやくと急かす。

「バカ市!何呆けてんだよ、はやく帰るぞ」
「・・・・・・」
「古市・・・?」

俺は、俺の腕を掴む男鹿の手を、静かに振り払った。
男鹿が目を見開く。

「何すんだよ・・・?」
「男鹿」
「あ?」

睨みはするが、男鹿の眼は揺れていた。困惑、苛立ち、不安。
好きな人のそんな顔を見るのはつらい。
けど、これは男鹿の幸せのためなんだよ。

「男鹿、俺達さ、ちょっと距離・・・おかないか?」
「は?」
「ほら、俺達ってさー、男同士にしてはべったりし過ぎじゃん」
「古市・・・」

声、震えてないかな。涙目になってないかな。
しっかりしろよ。男鹿には、幸せになってもらいたい。

「だから、な・・・?」
「嫌だ」
「もうお前は一人じゃないしさ。ベル坊にヒルダさん、邦枝先輩。他にもいっぱいいるだろう」
「古市」
「俺は、もう、」
「古市・・・!!」

男鹿は俺の肩を勢いよく掴む。その眼は必死で、俺の心も少し、揺れた。
でもすぐに持ち直す。

「男鹿・・・」
「何言ってんだよ、古市。お前、自分が何言ってんのか・・・」
「うん、わかってる」
「俺のこと、好きなんじゃねぇのかよ!」
「好きだよ」

好き過ぎて、おかしくなるくらいに。

「でもな、男鹿。ダメなんだよ」
「何がだよ?俺は、お前がいればいいんだよ!お前がいれば何もいらねぇ!!」
「だって・・・、俺達、男同士だろ」
「・・・・・・」
「世間的には、おかしいんだ。ダメなんだ」
「ダメじゃない国だってあるだろ」
「でも、ダメなんだよ」


そりゃ、同性しか愛せないとかなら、良い。ちゃんと異性を意識して、でもその結果、俺を想ってくれたならいい。
でも男鹿は違うんだ。
俺との距離が近すぎて、周りに俺しかいなくて、異性に目が行く前に俺に来ちまった。


「男鹿」
「古市・・・・・・・・・古市っ」
「わかってくれるよな」
「古市・・・!」
「男鹿」
「俺は、古市が好きだ・・・!」

ありがとう。男鹿。

「男鹿には、幸せになって欲しいんだよ」


そう言って笑うと、男鹿は泣きそうに顔を歪めた。そんな顔を見たいわけじゃないのに。








人を幸せにするって、こんな難しいことだったっけ
















幸せってなんだろう。



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