深い付き合いになる前から、モサッとしてヌメッとした野郎だとは思っていた。やることなすことねちっこいしな。だが、付き合って初めて分かることもある。
それは・・・、

姫川竜也が、とんでもない変態だってことだ。















「おはよう、神崎」

姫川のマンションに泊まると、たいてい姫川が先に起きている。だから俺はその姫川に起こされることになるのだが・・・。

「・・・てめえ、そのスマホは何だ」

最近知ったことだが、姫川は寝ている俺を写メに撮っている。しかも、何枚も。

「愛しい恋人のかわいらしい寝顔を写真に収めたいと思うのは当然だろう?」
「・・・・・・きめぇ」

そんな寒いことを平然と言ってのけるこいつの精神が知れない。俺はちっとも姫川の寝顔を撮りたいとは思わない。
しかし・・・、何よりも嫌なのが、撮られている写真が寝顔だけではないことだ。例えば登下校中や、学校で居眠りしている時、授業中など上げればきりがない。いつだったかその話を嬉しそうにされた時は全身に鳥肌が立った。俺専用のフォルダーとか何だそれいらねぇよ、削除しろ。


「神崎、遅刻するぞ?」

いつまでもベッドで渋い顔をしている俺に姫川が声をかける。誰のせいだ。
しぶしぶとベッドから降りて着替える。

「・・・・・・おい」
「ん、何だ?」
「出てけ」
「えー」

この変態は俺の着替えを眺めるのが好きらしい。そのために俺より早く起きてるんじゃないかとすら思う。そして俺は着替えを眺められる趣味はないんだ。
本当に、こいつがこんな執着する奴だって知らなかった。女にモテるし、以前は侍らしてたし・・・、もっとこう放任タイプだと思ってたんだが。
・・・・・・まぁ、付き合ってみないと分からないこともあるよな。






「神崎、朝飯できてるぞ」
「あ、おう」

こうして朝飯を用意してくれるのはありがたい。別に、俺だって簡単な飯くらいなら作れるが、俺は朝が弱いんだ。
初めは、金持ちだから変に高い朝食を用意されるのではと身構えていたが、そこら辺の常識はあるようでいたって普通の物だった。トーストにサラダにハム、そして俺のためのヨーグルッチ。朝はあまり食わない俺には少し多いが、用意してくれたのは嬉しいので全部食べる。












「神崎くん、おはよー」
「おはようございます、神崎さん」

教室に着くと、夏目と城山が駆け寄ってきた。横に居る姫川にも気付いて次いで挨拶をする。夏目なんかはスキンシップが激しいので挨拶と共に抱きついて来る。

「今日は姫ちゃんと一緒に登校かぁ」
「あー?」
「たまには俺ん家にも泊まってよー」

なんちゃってと笑う夏目だが、この手の冗談は姫川に通じないのでやめて欲しい。今も、サングラスの奥で目を細め俺を見ている。俺は急いで夏目を引き離すと自分の席に着いた。

付き合って知ったことその2。姫川はかなり嫉妬深くて独占欲が強い。さっきみたいな冗談でも機嫌悪くなるし、花澤とか女相手だと姫川の知らない所で会ったってだけで浮気かと詰め寄られる。女侍らしてたてめえじゃねーんだからいちいち浮気とか疑ってんじゃねーよ。鬱陶しい。
・・・まぁ、好かれてるって分かるのは悪い気はしないが。



「神崎」
「あ?」

考えてると、後ろの大森に声をかけられた。何だと振り返れば、小声で姫川を指さす。

「・・・あんた、また撮られてたわよ」
「あー・・・・・・」

ギロリと姫川を睨んでやれば、何を勘違いしたのか嬉しそうな笑みが返ってきた。
以前は周りにバレないよう俺を盗撮していた姫川だが、俺が気付いてからは周りの目を気にせずスマホを向けてくるようになった。そのせいで姫川の奇行は石矢魔の奴らに筒抜けだ。俺が恥ずかしいからやめてもらいたい。


「あんたも大変ね」
「・・・まーな。もうそろそろ慣れそうだがな」
「その前に止めさせたら?」
「言って止める奴じゃねーんだよ」

そう言って机に突っ伏す。これくらいの奇行なら俺もまだ耐えられる。だが、姫川が変態だという理由はこれだけじゃねえんだ。








昼休みになり、俺は姫川と二人屋上で弁当を広げる。前は教室で食っていたが、姫川の奇行が表立つようになってから屋上に変更した。

「かーんざきっ」

食べようと卵焼きを口に運ぼうとした時、えらく上機嫌な姫川に呼ばれた。何だと振り向けばアホみたいに口を開けている。・・・俺は眉間の皺を深めて睨んでやった。

「・・・ほら、神崎」
「死んでくれ」
「あーん、だろ」
「・・・・・・マジ死んでくれ!」

もう本当にありえねぇこのリーゼント!高校三年にもなる男が、何があーんだ!きもい!ふざけんなっ!
俺の顔は怒りで真っ赤なのだが、それを照れからだと勘違いした姫川はかわいいと叫びながら抱きついて来た。この勘違い野郎がぁあああ!!!


「は、なれろ・・・っ」
「あーんで照れるとか、神崎マジ初!」
「勘違いだ!・・・弁当食えねーだろうが!!」
「あ、俺が食わせてやるよっ」

そう言って、いい笑顔で俺にあーんとプチトマトを向けてくる。今度こそ、額に青筋が浮かんだ。だが、今こいつを殴ると一個とはいえプチトマトが駄目になる。暫く迷って、俺は乱暴にかぶり付いた。満足そうな姫川が忌々しい。

「な、神崎。次は俺にやってくれ」
「絶対嫌だ」
「・・・神崎」
「嫌だ」

断固として首を横に振ると、特に残念がることなくスマホをいじりながら弁当を食べ始めた。それにため息をついて、何か言われる前に自分の弁当をかき込む。姫川の奇行はこれだけで終わらないからだ。
案の定、姫川がまたニヤニヤ笑いで俺を呼んだ。目線だけ向けてやるとスマホをこちらに差し出している。

「・・・・・・んだよ」
「これ、さっき検索かけてたんだけどよ。神崎に似合うと思ってさ」
「あぁ?」

渡されたスマホを見れば、そこに表示されていたのはメイド服の数々。本っ当に、ここが教室じゃなくて良かった。
食べ終わった弁当を床に置いて、俺は姫川の胸倉を掴むと思いっきり揺さぶった。

「教室でいやに静かだと思ったら・・・ンな物調べてやがったのかぁあああ!!」
「一度は着てもらいたいだろ?メイド服」
「何で女に着せる物を俺が着なきゃならねーんだよ!女にでも着せとけ!!」
「俺は神崎のメイド姿が見たい!」
「男のメイド姿のどこがいい!つーか恥だ!恥!!」

そう言って胸倉を離してやると、姫川はサングラスの位置を直しながら真顔で言った。

「心配するな、お前なら似合う。俺が保証する」
「・・・・・・・・・・・・」


んな心配してねーよ!つーか、


「メイド服なんて着せてどーする気だ!?」
「え、そりゃあお前・・・」
「あ゛?」
「いろいろ奉仕させたり足撫でたり舐めたり、脱がせたり裂いたり着たままヤッ」
「もっ、もう黙れ変態ぃぃいいいいいっ!!」

二度目だが、本当にここが教室でなくて良かった!!こんな話周りに聞かれたら恥で死ねる!!!
羞恥のあまり俺は涙目になりながら、腹の底から叫んだ。

「涙目の神崎ヤバい!かわいいっ」
「写メんなぁ!!」

マジ何なのコイツ!
スマホを奪おうとしたら手を目いっぱい上に伸ばされて届かなくなる。僅か4cm差の身長が恨めしい。俺も一生懸命手足を伸ばすが、姫川は余裕気に俺の手を避ける。


「そのスマホ貸せ!叩き割ってやる」
「やだよ。せっかく撮った神崎の写メがもったいないだろ?」
「今すぐ消せぇええ!!!」












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