ある日、陣野の家でお家デートをしていたら、神崎が異様にチラチラと見て来るので陣野は参考書から目を離して神崎を見た。
陣野と神崎のお家デートは、主に陣野が受験勉強をしているのを神崎が側で見ている、というものだ。つまらなそうにすることもあるが、決して陣野の勉強を妨害するようなことはしてこない。我が儘だとばかり思っていたのだが、陣野はこのことに少なからず感心した。と、同時にもう少し甘えてきてくれてもいいのに、とかまってやれないことを申し訳なくも思っていた。
ともかく、神崎がこのように陣野の様子をうかがってくることは今までになかった。何かしてしまったのかと、陣野は心の中で今日一日を振り返ってみるが、思い当たる節はなく・・・。
「どうした?」
結局、神崎本人に訊いてしまう。
しかし、神崎は下を向いて黙ってしまい陣野も困る。ポリポリと頬をかきながら再度声をかけた。
「はじめ、どうしたんだ?」
「・・・・・・」
「言わないと分からないぞ」
「・・・・・・」
「はぁ・・・」
「・・・・・・っ」
陣野は思わずため息をついてしまう。勉強の邪魔だと呆れたわけではなく、どうしたらいいか分からなかっただけなのだが、神崎はそれにビクリと肩を揺らした。
「あ、・・・・・・悪ぃ」
「はじめ?」
「そ、の・・・邪魔がしたいわけじゃ、ねーんだけど・・・」
「あぁ、・・・分かっている」
今にも泣きそうな神崎を安心させようと手を握り額や頬にキスをする。
「怒っているわけではない。言ってみろ」
「・・・・・・ん」
小さく頷くと、神崎はおずおずと背中に手を回してある物を差し出してきた。
「・・・教科書とノートと、鉛筆?」
それは受験を控えた三年生、いや三年生でなくとも学生なら当たり前に常備している物なのだが、神崎が持っているととてつもない違和感があった。と言うか、勉強など一切していなかった神崎が何故こんな物を、と陣野は首を傾げる。
「・・・・・・これが?」
「教えてくれ」
「?」
今何と、と陣野はじっと神崎を見つめる。
「何を、教えるって?」
「・・・・・・・・・・・勉強」
「・・・べん、きょう」
「ん」
少しの間、二人無言で見つめ合う。暫くして、陣野が口を開いた。
「・・・いったい、どういう風の吹き回しだ」
「・・・・・・今日の放課後」
「放課後?」
「てめえ、聖の奴に告られてたろ」
「・・・あぁ」
確かに、神崎と帰ろうと校門に向かっている途中女生徒に声をかけられ告白をされた。神崎が待っている校門からは離れていたので見られていたとは思わなかった。
(それで機嫌を損ねたのか・・・?)
そう思ったのだが、怒っている様子ではなくどちらかというと落ち込んでいる様だ。
「だが、きちんと断ったぞ」
「おう、見てた」
「なら・・・、」
「合ってた」
「ん?」
「釣り合ってた、てめら・・・」
神崎の言葉に、陣野はピクリと片眉を反応させる。
「何が言いたい?」
嫉妬だとしたらかわいらしいと思えたが、いったいどういう意味で今の言葉を言ったのか・・・。雰囲気の変わった陣野に神崎も眉を寄せた。
「最後まで聞けよ」
「何だ」
「怒んな、聞けって」
「・・・分かった」
とりあえず頷いた陣野にホッとしつつ神崎は話を続ける。
「てめえ、不良のくせに頭良いし」
「・・・・・・」
「落ち着いてるし」
「・・・・・・」
「なんか、聖の奴らと一緒に居ても違和感がなくて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・それに比べて、俺はバカだから、その」
俯いて手に持っていた教科書をぎゅっと握りしめる。
「俺が、かおるに釣り合ってねぇな、って思った」
陣野は、眉をさげ寂しそうに呟いた神崎の頭を撫でた。そして、優しい声音で慰めるように声をかける。
「そんなことはない。勉強は向き不向きがあるだろう」
「・・・でも、俺はただでさえ男だし」
「はじめ」
「そのうえ、すっげーバカだし」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺と付き合ってんの知られて、かおるがバカにされたりしたら、って思って」
「・・・バカだなぁ」
そう言って呆れ、それでも嬉しそうに笑うと神崎を抱き締めた。無言でされるがままの神崎の頭をぐしゃぐしゃと少し乱暴に撫でる。
「そんなこと、気にする必要はない」
「・・・おう」
「俺がはじめのことを好きなんだ。周りが何と言おうが関係ないだろう?」
「・・・おう」
「だから泣くな」
陣野の方に額を押し付けふるふると震える神崎のつむじに優しくキスをする。
「泣いて、ねー」
「そうか?」
「ん」
頷く神崎の目には涙が溜まっていて、陣野はその強がりに小さく笑った。それにムッとした神崎は陣野の長い髪を引っ張る。
「笑うなっ」
「はじめがかわいいからだ」
「かわいい言うな!」
「・・・勉強、教えて欲しいのか」
「・・・・・・おう」
譲らない神崎に苦笑する。
「バカなのもかわいい所だと、俺は思ってるんだがな」
「な、んだそれ・・・」
「バカな所も好きだってことだ」
「・・・バカバカ言うな!」
「本当のことだ」
怒って殴りかかってきた神崎の手首を掴み床に転がす。何すんだと怒鳴る神崎の上にのっかり、陣野は薄く笑った。
「仕方ない奴だ」
「あ゛?」
「勉強・・・か」
「かおる?・・・・・・って、やめろ!!」
陣野は片手で神崎の両腕を拘束し、空いている右手で服に手を入れて腹を撫でた。
「こっちの勉強を教えてやろう」
舌なめずりをしながらそう言う陣野に、神崎は口を開け呆ける。
「・・・・・・っ、この、ムッツリが!」
「お前だって好きだろう」
そう挑発的に笑う陣野に眉を寄せながらも、神崎は抵抗せず降ってくるキスを受け止めた。
甘ーい(?)かお神!ずっとかお神書きたかったんですよー(^^)
陣野に釣り合いたくて、頑張る神崎くんのお話。