神崎に告白された。あの、神崎にだ。放課後、屋上に呼び出されたかと思ったら、いきなりお前が好きだ、ときたもんだ。赤面するでもなくおろおろするでもなく、真っ直ぐ俺を見て告白され、何も言えなかった。ただ立ち尽くす俺に怒鳴るでも凄むでもなく、神崎はただ黙って待っていた。
少しして、漸く俺はその告白を断った。別に呆けていたのは告白の返事を迷っていたわけではなく最初から答えはノーだったのだが、神崎の迫力に負け何も言えなかったのだ。それどころか、あまりにさらっと言われからかうことも嘲笑うこともできなかった。

「そうか。わかった」

神崎はそう言うと背を向けて屋上を出て行こうとした。声をかけようか迷ったが結局はそのまま見送った。
次の日、どんな顔で教室に入ろうかと柄にもなくそわそわしていた俺に、神崎はいつも通り接してきた。まるで告白などなかったかのように、怒鳴り合ったり掴みかかったり。何だか俺一人が気にしていたみたいでムカついたが、逆に気まずくなっても何か困るので俺も忘れようとした。




しかし、神崎の告白によって俺は神崎のことを見るようになった。別に好きとかではない。だた、神崎の存在を意識・・・、いや、以前より認識するようになったのは確かだ。
夏目達との会話から始まり、他の不良への怒声など神崎の声を無意識に拾っているし、教室を出て行くその背を目で追うこともしばしば。いったいどうしたことかと頭を悩ませたが、そのおかげと言うべきかは定かではないが、神崎のことを今まで以上に知った。
ヨーグルッチを飲んでいる時、いつもの無愛想な表情が少しだけ緩むとか、無頓着なように見えて夏目や城山の話を聞いているだとか、箸の使い方が綺麗だとか、笑うと年相応に見えるとか・・・。知らなかった神崎のことを知って行き、俺の思惑とは裏腹に神崎を意識すると心臓が早鐘を打つようになっていった。
何てことだろう。


極めつけが姪っ子の存在だ。子供とは無縁だと、子供なんて嫌いだろうと思っていたのに、神崎は意外と子煩悩らしかった。神崎の子供じゃないが。
あの二葉とか言う姪っ子の面倒を見ている神崎は、俺の何かにとてもヒットしたらしく、正直目が離せない。文句を言いながら、何だかんだで世話を焼き手を繋いで歩いてやる神崎はあまりに眩しかった。自分でも気持ち悪いと思う程に、その様を見て頬が緩んだ。

何お前その面で子供好きなのしかも子供に懐かれるとか何それ、何狙いだよ。本当に落ち着いてくれよ俺の心臓。いい加減神崎から目を離そう。そして現実を見るんだ、俺。

どんなに神崎を見ないようにしても現実を見ても、あるいは現実から目を逸らしてみても、どうしようもなく俺は神崎に惚れてしまったらしい。本当に、何てことだろう。
神崎の方はもう俺に興味なんてないような素振りになってしまったと言うのに、俺は告白をきっかけに神崎を意識して挙句の果てには好きになってしまっただなんて。
もう一度神崎の興味を俺に向けるにはどうしたらいいのか。ろくに観光もしないでそればかり考えていたら、何故か二葉と花澤を助けることになった。騒がしいからと外に出てみて正解だったな。そのおかげで、今俺の目の前には神崎がいる。







「二葉が世話になったな」

そう言って、珍しく礼を言ってくる神崎に俺は口角が上がる。二葉助けてよかったわ。

「で、二葉どこだ?」

神崎は二葉を迎えに来たのだが、二葉は先ほど花澤が連れて行った。そのことを教えると、神崎はため息とついて軽く項垂れた。

「マジかよ。それを早く言え」
「悪い悪い」
「軽い野郎だ。・・・てか、何その格好」

神崎はそう言って睨むようにしてバスローブ姿のままの俺を見る。時間もなかったし、男同士だし、恥じる要素などなかったので着替えなかったのだが、神崎にはあまり好ましくない格好らしかった。・・・俺としては神崎の風呂上りを見たかったなどとは、口が裂けても言えないな。

「仕方ねぇだろ。風呂入ってたんだ」
「・・・・・・沖縄まで来て、大層なこって」
「相部屋なんて勘弁だからな」

神崎と二人っきりなら、大歓迎だが。

「あっそ」

そう言って背を向ける神崎に俺は思わず焦った。

「何、もう帰んの?」
「二葉いねーんだからな」
「・・・・・・姪っ子の恩人に、もう少し付き合う気はねえのかよ」
「はあ?」

何だそりゃ、とこちらを振り返って神崎は首を傾げる。本当に、俺のことなんてどうでもよくなっちまったんだろうか。少しばかり心が折れそうだった。
てか、変な所で諦めよくしてんじゃねーよ。ケンカの時は鬱陶しいくらい諦め悪ぃくせによ。

「何、ぼっちで寂しいのかよ、お坊ちゃん」

ちゃかす感じの神崎を無視して、その腕を掴み部屋の中まで連れて行く。戸惑う様子を見せるが、ここまできて逃げられてたまるかと摘む手に力を入れた。

「姫川・・・?」
「神崎よぉ」
「お、おう」
「・・・・・・・・・・・・」
「おい、姫川?」

やばい。連れてきたはいいが、何を話したらいいのか分からない。頭が急に真っ白になった。何だこれ、マジ告白とか神崎よくできたな。


「あー、あのよ」
「へ?」
「とりあえず、手離してくんね?痛ぇし・・・」
「ああ、悪い・・・」

そう言って腕を離すと神崎は居心地悪そうに俺と床を交互に見る。

「・・・・・・神崎、さ」
「おう」
「俺に告って来たの覚えてるか?」
「・・・・・・っ、あ、あぁ。それが、何だよ」
「うん」

少し間を開け、俺は意を決して話し出した。

「俺さー、あの時、何の考えもなく、断ったわけよ。男同士だし、さ」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、それからさ、何かの呪いでもかかったんじゃねえかってくらいお前が気になって」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・なんて、言うか、うん。・・・・・・お前に惚れた、というか」
「・・・・・・・・・・・・」
「神崎のことが、好きになった」

やっとのことで言い切って、深呼吸をして目線を右に逸らしたら、情けないほどに真っ赤な顔をした自分が目に入った。全身鏡があるのを忘れていた。
これは、情けない。ひどすぎる。全身鏡から目を逸らし、そういや神崎さっきから黙ったままだな、と顔を覗き込んでみればこちらも顔を真っ赤にしていた。握った拳が緊張だかで震えているのを見て、俺にも少し余裕ができてきた。

「・・・神崎?」
「・・・・・・っ」

声をかけると、それだけで大げさすぎる程に肩を揺らした。さっきまでと同一人物だとは思えないほどの反応だ。
告白した後、神崎も気にしないように勤めていただけなのだろうか。実は少し傷ついたりしてたんだろうか。ここに来るのだって、実は少し意識していたのだろうか。そう考えると、神崎がかわいくて仕方なくなった。
優しく手を取ってもう一度名前を呼ぶ。

「なあ、神崎」
「・・・な、にっ」
「返事、聞きてえんだけど」
「へ、んじ・・・・・・って、その」
「おう」
「・・・・・・っ、お、俺は、その」
「おう」

真っ赤になって右見たり左見たり、やばい、面白すぎる。つーかやっぱかわいいな、こいつ。ニヤニヤしながら見ていると、握っていた手をきゅっと握り返された。

「お、れも・・・す、好き、だ・・・っ」
「・・・・・・っ!」

その言葉に、俺の頬も再び熱を持った。つーかマジかよ、とりあえず抱き締めたいんだが。いいかな・・・。

「神崎・・・っ」
「ひっ!?」

思わず抱き締めると、体を強張らせ高い声を出した。ビビらせたみたいだが、殴られたり拒否られないことにホッとした。暫くして、恐る恐ると言った感じだが抱き締め返され、俺もぎゅうぎゅうと抱き締める。

「やばい。マジで嬉しい」
「・・・くるし、んだけど」
「もうちょっと」
「・・・・・・っ!」

キスしようとしたら、少し押し返された。

「駄目か?」
「てか、・・・・・・ダメというか、マジ、一旦着替えろよ」
「・・・ああ」

なるほど、結局意識してたのね。ま、俺も今の状況を再認識して、少し喉が鳴ったのだけど。二人っきりな上に、すぐ横にはベッド。うん、これって据え膳ってやつか?そう思い服に手を突っ込もうとしたら、流石に殴られた。


「ばっ!てめええええ!!」
「悪い、だってせっかくの二人っきりだし・・・」
「さ、最悪だ!変態!帰る!!」
「ちょ、ちょっと待ってって!神崎っ!?」


走って部屋を出て行こうとする神崎を何とか捕まえて、腕の中に閉じ込める。その間も殴ったり蹴ったりしてくるが顔が真っ赤でかわいいので全然ムカつかない。
さて、これからどうしようか。ベッドへ直行はないとして、せっかくの修学旅行なのだ。恋人らしい思い出を残したいと、それくらいは思ってもいいだろう。

















姫←神からの両想い。
うーん、スランプですね・・・!





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