朝教室に入ると、夏目と城山が珍しく雑誌を読んでいるもんだから、思わず覗き込んだ。
「なに読んでんだ?」
「あ、神崎くん。おはよー」
「おはようございます。神崎さん」
城山は軽く会釈をし、夏目はいつもの胡散臭い笑みを浮かべ、あいさつしてくる。
開いているページには大きな見出しで『星座占い』と書かれていた。
俺は思わず顔をしかめる。
こいつらはこういった物を読む奴だったのか。
「あ!これねー、よく当たるって評判なんだよ」
「・・・そうか」
恐ろしく似合わねーな。
特に城山が。
「あ、神崎くんの運勢も見てあげようか」
「あ?いらねぇよ」
断れば、夏目はいいからいいから、と笑う。その横で、城山が夏目にため息をついた。
「どの運を見ようかなぁ。あ、やっぱ恋愛運?」
「恋愛運だぁ?んなもんいらねーよ!金運とかにしとけや」
「えー」
笑いながら文句を言う夏目に呆れていると、横から見なれたフランスパンが割って入ってきた。
「何してんだ?てめえら」
・・・・・・まぁ、姫川なんだが。
「あ、姫ちゃん。今ね、神崎くんの恋愛運を見てたところだよ」
「金運だ!」
「ふうん」
姫川は頷いて黙る。
あー、もうイライラする!さっさとどっか行かねぇかな、このフランスパン。
横で城山が落ち着いてとそわそわしてるが、落ち着いてられっか!
何でこいつに話しかけられないといけねぇんだよ。よくわかんねぇけど、なんかムカつくなぁ!
だいたい、姫川は占いとか不要だろ。女には困ってねぇし、金にはもっと困ってねぇ。健康とかは知らねぇけどよ。
ムカつくからはやくどっか行けっつーの・・・。
俺は軽く舌打ちし、ヨーグルッチを飲むことだけに集中しようとした。
なのに、姫川の意外な一言にその集中は乱された。
「へぇ、なら・・・、俺の恋愛運見てくれよ」
思わず、ヨーグルッチを吹き出した。
「・・・・・・ぶっ!?」
「汚ぇなぁ、なんだよ」
姫川が不満そうに言うが、夏目も意外だと目を見開く。
「いやいや、仕方ないよ。俺もびっくりしたー。何、姫ちゃん、好きな子いたの?」
そうたずねる夏目の横で、城山は意外だと呟き、首をひねる。
まったく、何かのドッキリか?こいつの本命とか、想像できねぇな。
好き勝手な反応をしてると、姫川にため息をつかれた。
「てめえら・・・、俺のことなんだと思ってんだよ。失礼な奴らだな」
文句を言いつつ、夏目に占いの結果をせかす。
「あ、うん。そうだなぁ・・・・・・」
何だか俺も気になってきて、夏目の方を見る。
「あ、良かったねー!恋が進展するってさ」
ほー。進展・・・。
「えー、『積極的にアタックせず、相手の出方を見るのが良いでしょう。強引すぎると、相手が逃げてしまいます』だってー」
「なるほどね」
姫川はうんうんと頷いて考え込む。その目は真剣で、どうやらその女に本気なようだ。
俺はなんだか、姫川の恋が無性に気になってきた。
だってだ、姫川と言えば、金さえあれば何でもできる、って考えの奴で、女も舎弟も金で手に入れてきた。
間違っても、こんな雑誌の星座占いを頼る奴なんかじゃねぇ。
・・・と言うか、人の恋愛事情は結構面白かったりするもんだ。邦枝しかり。
だが、夏目や城山の前で詳しい話を聞くのはよくねぇ気がする。城山はともかく、夏目はうるさそうだ。
俺は、聞きたい気持ちをぐっと抑え、自分の席につく姫川の背中を見つめた。
一日中、そわそわしている俺を城山と夏目が不思議そうに見ているが、知ったこっちゃねー。
俺は!姫川の!恋愛事情を知って!冷やかしてーんだよ!!
そんな感じで授業も身に入らず(いつもだが)、はやくも放課後になってしまった。
なんか、冷やかしたいのに冷やかせず、すっかり脱力しちまった。
疲れたから、城山と夏目は先に帰らせた。
心配はありがてぇが、あいつらいると、うっせーからなぁ。
ちょっと寝てから帰るか、って考えてたら、教室のドアが開く音がした。誰かと思って目線をやると・・・、
姫川の野郎だった。
「あ?神崎、まだ帰ってなかったのかよ」
「そ、それはこっちのセリフだ・・・」
思わぬチャンスに、心の中でガッツポーズをした。
落ち着け、神崎一。ここでニヤけたら、感づかれる。
自然に自然に・・・・・・。
「神崎、顔に出てるぞ」
「あぁ!?」
バカな!?
思わず後ずさる。
くっ・・・、面白イベントもここまでか。
「何やってんだ・・・、神崎」
姫川に呆れられる日がくるとはな。屈辱だが、こうなったら当たって砕けるのが一番はやいかもなぁ。
ゲームの件もあって、以前よりはまぁ、アレだ。喧嘩もしなくなったしなぁ。相変わらず意味もなくムカつくけど。恋愛事情くらい聞いても、いいだろ。
「・・・・・・姫川」
「何だ?」
「あー、今朝の話だけどよ。あの星座占いの?」
「あ?・・・あー。あれがどうかしたかよ?」
「ぶっちゃけ、てめえが好きなのって・・・・・・・・・、誰?」
言った。言っちまったー!言ったら言ったで恥ずかしいな!
姫川もはやく何か言えっつーの!
「・・・、神崎」
「な、何だよ」
「中学生か、てめえは」
「うっせーよ!」
そう言われるから夏目の前で言いたくなかったんだよ!
ほっとけや!
「ま、いいけどよ」
「・・・・・・・・・へ?」
んなあっさり?
「ガキじゃねーんだ。別に隠すことでもないだろ」
「お、おう」
なんか、あっさりだな。こうもあっさりだと、何かありそうで怖いな。
何てったって、姫川だしなぁ。
「で、何。知りてーの?」
「あ、あぁ・・・」
「なら、家来い」
「はぁ!?」
今何て言った?このフランスパン!
「なななな何、何気持ち悪ぃこと言って・・・・・・!?」
「落ち着けよ」
姫川はサングラスをカチャリとかけ直す。
「お前、学校なんかで話して、東邦神姫の二人が恋ばなしてる所見られてもいいのかよ」
「それは、嫌だな」
頷けば、だろ?と姫川は笑う。
いや、そんな綺麗に笑われても・・・。
って、何でちょっとドキってしてんだ!!
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