二人きりの教室、夏目は雑誌から目を離し神崎を見た。


「ねえ、神崎くん」
「あー?」

窓の外を見ながら、だるそうに答える。

「姫ちゃん、許嫁いるらしいね」

ふと、夏目の方を見ると、相変わらず胡散臭い笑みを作っている。

「らしいな」
「あれ?驚かないんだ」

笑う夏目にまーな、と軽く答える。

「許嫁の所に行っちゃうかもしれないねぇ、姫ちゃん」
「そうだな」

短く答える神崎に、夏目は近付いていく。お互いの鼻がくっつくギリギリまで近付くと、ピタリと止まった。


「俺にしちゃいなよ」

そう、笑って言う。

「俺なら神崎くんを置いて行ったりしないよ」

そう言って、更に顔を近付けてくる夏目に、神崎は静かに言った。目は逸らさずに。

「それでも、俺はあいつが好きだよ」

その言葉を訊いて、夏目は神崎から離れる。そして、少しだけ笑顔を崩した。


「だよねぇ」




帰ろうか、と言う夏目に神崎は何も言わず席を立った。





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