おいで/好きだ/バーカ






日曜日、暇だからと姫川のマンションに来てみた。ゲームでもやろうと思ってのことで、別に姫川に会いに来たわけじゃない。それでも、だ。この俺が来てやったってのに、さっきから携帯と睨めっこだ。仕事だか女だか知らねーが、この携帯依存症が。
後ろのソファーでカチカチやられて、全然ゲームに集中できない。ムカつく。てか、一言も喋らねーし。・・・・・・んだよ、来ちゃまずかったのか?忙しそうには見えないが。


「・・・・・・あ」

そんなことを考えてたら、死んだ。最悪だ。大分前からセーブしてない。

「・・・チッ」
「珍しな」
「あ゛?」
「このゲーム、得意だったろ」
「・・・・・・うっせーよ」

やっと喋ったと思ったら、嫌味かよ。ムカつくムカつく・・・っ。
電源を切って、立ち上がる。

「やり直さねーの?」
「・・・飽きた」
「で?どこへ?」
「帰る」

そう言ってカバンを掴むと、姫川は目線だけで俺を追った。何だよ、引きとめもしねーのかよ。やっぱ、何か用事でもあったのか。・・・女とか。
そう思うとムカついて、振り返る気にもならなかった。いいや、城山と夏目呼び出して八つ当たりしてやる。

「神崎」

部屋のドアに手をかけた時、名前を呼ばれた。一瞬動きを止めるが、それでも腹の虫は落ち着かない。別に、俺の思い違いかもしれねえし、勝手にイライラしてるのは分かってる。ケンカもしたくねーし、やっぱり帰ろう。
黙ってドアを開けると、姫川がソファーから立ち上がったのが気配で分かった。


「神崎」
「帰る。邪魔したな」
「・・・神崎」
「・・・・・・、何だよ」

痺れを切らして振り返ると、姫川は両手を広げて突っ立ていた。何してんだ、こいつ。
何か言おうと口を開いたが、それより早く姫川が声を上げた。


「おいで」


は?
開いた口が塞がらないとはこのことだ。何だ、おいでって・・・。怒ってる相手に何言ってんだ。いや、そもそもこいつは俺がムカついてるの知らないか。

「・・・何言ってんだ」
「いいから」

珍しいことに優しく笑って、もう一度、おいでと呟いた。
言いたいことはいろいろあった。用事あるんじゃ、とか俺といる時は携帯いじんなとか。それでも勝手に足は動く。気付いたら姫川の目の前にいた。

「・・・ひめ」

言い切る前に、姫川の腕に抱き締められた。急だったので、むぐ、と変な声が出る。つーか苦しい。こいつ、俺に何も言わせないつもりか。
抱き締められたまま、ソファーまで連れてかれた。歩きにくいったらない。後ろから姫川に抱き締められた状態で座る。
何だこれ。

「・・・俺、帰るつもりだったんだけど」
「んー?」
「おい」
「ま、いいじゃん」
「なっ」

そう言って、また携帯を弄り出す。・・・本当に何だこれ。抜け出そうと軽く身をよじったら、更に強い力で抱き締められた。
ムカつくのに抵抗できない。殴りゃ抜け出せるだろうけど・・・。

あー、ちくしょうっ。


何もできない俺は、仕方なく姫川の腕の中で大人しくしてるしかなかった。
















どれだけそうしてただろう。相変わらず姫川は携帯いじってるし、俺は何もできねーし。
何だか怒り通り越して虚しくなってきた。俺ってこいつの何なんだろう。

「離せ」
「何で?トイレ?」
「違ぇけど」
「ゲームは飽きたんだろ?」
「・・・だから帰、」
「あ、電話」
「・・・・・・っ!」

その言葉で、俺はもう耐えられなかった。一気に頭に血が上って、何とか抜け出そうと抵抗する。
ムカつくムカつくムカつく。俺はてめえの玩具じゃねーんだよ!

「おい、暴れんなよ。電話が・・・」
「うっせー!さっさと出ればいいだろ!俺は帰る!」
「・・・っとに、」

そう言って、姫川は携帯の電源を切った。

「これでいいだろ」
「あ゛ぁ!?」

そう言って、電源の切れた携帯を俺の前に差し出した。

「・・・は?」
「切ったから」
「・・・・・・電話は?」
「もういい」
「・・・いや、」

よくはねーんじゃ。そう思いつつも言葉は出ない。
ポカンと呆けてる俺を喉で笑って、姫川は両腕でぎゅうっと俺を抱き締めた。

「何、」
「・・・かわいい奴」
「はぁ?」
「俺が携帯いじってたのが嫌だったんだろ?」
「あ?別に・・・」
「分かりやすいんだよ、お前」
「・・・んなこと」

言葉を濁す俺の頭を撫でて、後ろから頬にキスをしてきた。

「ちょ・・・っ」
「顔真っ赤だな」
「ぐっ」
「好きだよ」

そう言って、今度は項にキスをしてくる。
姫川に触れられた所が熱くて仕方がない。顔が上げれず、俺はただ黙ってされるがままだった。

「な、今日泊まってかね?」
「・・・あ、した・・・学校」

鞄とかねーし、と言うと姫川は笑う。

「朝、てめえん家寄ればいい」
「・・・・・・」
「な?」

髪を触る手の温もりと甘い声に促され、俺はコクリと頷いた。







その前に、一つ聞きたいことがあった。


「さっきの、」
「ん?」
「さっきの電話・・・・・・女か?」

そう訊くと、姫川は携帯をソファーの端っこに放り投げた。

「バーカ」
「な!?」
「駒、ってか使ってる不良からだよ」
「ふ、ふうん」


ヤキモチ?と嬉しそうに訊いてくるので、軽く肘で小突いてやった。













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