※この声が聞こえるか


※死ネタ注意※






まだ、伝えたい事があるんだ。
それが届かなくちゃ意味がない。
聞こえなきゃ、意味がない。

だから絶対に、離さない。



何年か前に、幼なじみはそう言った。
もし自分が死んでしまったらどうする、などと下らない事を彼に言った時の、彼の真っ直ぐな目を覚えている。

死なせない、死なせるわけがない、自分が絶対に守るんだ。
そう彼は言ってくれた。
くだらない質問には勿体無い答えだった。

その後もずっと、その言葉を信じてきた。自分も彼を失いたくはない、だからお互いに守りあってきた。
それに終わりなどないと思っていた。


不思議と、寒さも暑さも、感じない。
恐怖も不安もなかった。
寝転がっているのに、痛さもない。

ただ、少し残念な気持ちはあった。


「クロリ」

澄んだ声が聞こえる。
微かに震え、湿りを含んだ声が。

にこりと笑って目を合わせた。
ごめんと謝罪の言葉をゆっくりと呟けば、彼の眉は持ち上がり、握られた手は更にきつく白くなっていく。


「…諦めるな」
「アスベル、汚れちゃうよ。このまま置いていって、いいんだよ」


べとり。

繋がれた手は血にまみれていた。
手だけではない。
体のいたるところから、赤い液体が流れ出て、彼の白を染めていく。


「ふざけるな、クロリ」
「ふざけて、ないよ。…アスベル、今大事なのは、なに?」


手を軽く握り返し、周りを見渡す。

涙がいまにも零れ落ちそうで、必死に回復術をかけてくれるシェリアがいる。
珍しく焦る、ヒューバートの姿も見える。
ソフィは不思議そうにこちらをじっと見つめていて、教官やパスカルの顔にも影ができていた。

今は、星の核の目の前にいる。
ラムダを止めるため、リチャードを救うために、ここまで来たのだ。

それは突然の出来事だった。
途中の魔物に不覚を取り、毒がまわったクロリに、回復術はおろか薬さえも効かなかった。

戻る訳にはいかない、このまま進もう。

自分から申し出て、そのままなんとか歩いてきたが、体が耐えることが出来ず、星の核の目の前で、ついに足をついてしまったのだ。


しかし今大事なのは、自分を回復することじゃない。
世界を、大切な人を救わなければならないのだ。


「ほら、アスベル、」
「絶対に!!…絶対に、離してやるものか。伝えたい事があるんだって、言っただろう!」

必死に叫ぶ彼に、申し訳ないと思った。
守れなかった、だなんて思ってしまうのだろう。ただの自分のミスなのに。

そんな優しい彼が、好きだった。


「ありがとう、アスベル。ありがとう、みんな。ありがとう、」
「喋るな、喋らないでくれ!クロリ…っ!」

涙を流しながら叫ぶ、その声がだんだんと霞んできて。


「アス、ベル、」


その声が聞こえなくなるのは、勿体無いなと思った。

出来れば最後を見届けたかった。
いつも彼との、みんなとの未来を想像していた。


「――…、」


唇を僅かに動かした。それは、音にはならずに、静かに消えた。
はっとした表情がうっすらと見える。


「…聞こえなきゃ、意味がないだろう」


ぽつりと、聞こえる。


「届かなきゃ意味がないだろう…!」


頬に微かな冷たさを感じた。
最後に顔を見たかったけど、もう目は開けてられなくて、全神経を耳に集中させる。

昔と同じ言葉を、また聞けた。
それだけで十分に幸せだと思った。


「クロリ、生きてくれ、お前がいない、未来なんて」




静寂が、訪れる。




「俺も、好きなんだ、」





(この声が聞こえるか)


(にこりと笑って彼女は消えた)












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