こっちむいて。(アスベル)



あなたの真っ直ぐな瞳が苦手だ。


「クロリ」


凛とした声で名前を呼ばれる。
真っ直ぐな、目。

すべてを見透かされているようで、心の奥に触れられているようで、どこに目を向けていいのかわからなくなるのだ。

うつむいて、顔を逸らす。

「なあ、こっち、向けって」
「だから、なんでもないってば」

先程から、このやり取りを何度繰り返しただろうか。
いい加減に終わらせてしまいたい。
しかし彼は簡単には放してくれず、距離はどんどん近付いてきて、こちらを真っ直ぐ見つめている。

最初はこうなるとは思っていなかった。
彼の言葉をさりげなく無視してみたり、ヒューバートや教官に一日中喋りかけてみたりしてみただけだったのだ。

彼には大切な人がいる、そんなことはわかりきっているのに、一度だけでもいいから自分を見てほしくて。
そんなものはただの我が儘だと知っていたのに、つい子供のようになってしまった。

それでもきっと特に気にしないだろう、と思って試してみただけだったのに。


「なあ、クロリ…そろそろ教えてくれないか。なんで、避けるのか」

困ったように、アスベルが口を開く。
こんなこと、話すに話せない。

「な、なんでもないから」
「いや、嘘だ。本当なら目を合わせてくれよ、」
「…っ、」

がしりと両頬に手を添え、アスベルが私の身長にあわせて屈む。

近い。

目が合ってしまって離せない。


「あ、アスベルが…アスベルがわるいっ」


熱く、赤くなる顔を見られたくなくてつい手をはじいた。
アスベルは驚いたように口を開く。


「いつもいつもシェリアとソフィばっかり構って全然見てくれないしヒューは兄さん贔屓で相談乗ってくれないし教官は変なことばっかり言うしアスベルは鈍感だしっ」

違う、そんなことが言いたいんじゃない。だけど口からは我が儘しか出てこなくて、自分の子供加減にほとほと呆れてしまう。

「わたしは……、」


一息にまくし立てて、そこで気付いた。
アスベルが、呆然としている。

ああ、やってしまった。

当たり前だ、すぐに後悔の念に襲われた。
きっと呆れられる、


「ア、アスベル、ごめ……」
「クロリ!」
「はっはい!?」

急にアスベルの顔が輝いた。
いつもの笑顔で、何故か安心したように息を吐いている。


「嫌われたかと思った」
「は…?」
「でも……傷ついたな。」


笑顔で、真っ直ぐに見つめてくるものだから、なんだか気恥ずかしい…と同時に寒気がした。
アスベルが怒っている。


「最近お前が、ヒューバートや教官ばかりで…挙げ句に無視されるし」
「ご、ごめんって」
「ついでに俺が一番想う奴は盛大な勘違いをしてる」
「え、」

耳を疑った。
彼は今、何を言ったのだ。

だんだんと訳がわからなくなる頭を早く整理したいのに、彼の目に捕らえられてうまく思考が働かない。


「アスベ…」
「好きだ」


途端、力いっぱいに抱きしめられた。


頭の中の感情が絡まる。
アスベルの感触、アスベルの匂い、アスベルの吐息が全神経に行き渡るようで、鼓動が早く早く高鳴っていく。
私は変態か。


「アス、アスベル、」
「ん…?」
「うそ…いやいやいや落ち着いて」
「お前が落ち着けって」

クスクスと笑うアスベルが信じられない。
あの鈍感で鈍感で鈍感なアスベルが。

これは夢だ、私の妄想だと唸っていると、むくれたような声が耳に入ってきた。

「もう、あんまり妬かせないでくれよ」

どっちが、と思いながら、今までのことが馬鹿みたいに思えた。
それに彼がむくれているのがどうにもおかしくて、ついこちらも笑ってしまった。
彼の体を話して、顔を向ける。


「…何笑ってるんだよ」
「アスベル、ありがとう、私も…好きです。さっきは…ごめん」
「嫌だ。」
「え!?」
「これで許してやる」


ちゅ、とリップ音が一つ鳴った。


「クロリ、真っ赤。」


彼の真っ直ぐな瞳が苦手だ。
私を捕らえて離さない。

悔しいと思いながら、あとで仕返ししてやると強く誓った。





***
アスベルさんはやるときはやる男だと思います。
ゲーム中のアスベルさんが真っ直ぐすぎて画面が見れません。こっち見んな惚れる。












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