彼の為に戦うことが出来たならどんなに幸せだろうか。何度それを願ったことだろうか。

しかし、それは私には叶えられない願いだ。三年前の紛争で右半身をほとんど失った。普段は義手や義足で生活を賄っているが到底闘えなんてしない。身体は自由が効かなくて、ボロボロで、醜い。でもそんな時に手を差しのべてくださったのが紅覇様だった。彼は私たちのような異形を救い、自分の部下と呼んでくださっていたのだ。

しかし、私はそんな自分の存在が許せない。


部下とは上司の力になってこそのもの。私にはそれが成せない。存在意義なんて無いのではないか。それどころか私は紅覇様にとってお荷物だ。つい先刻のこと、私はそれを身をもって思い知らされてしまったのだ。



「お前を殺せば皇子様がお怒りなんだろう?」
「こんな化け物殺すくらい簡単だよなぁ」
「試しに腕一本へしおるか」


敵国の中等兵士だろうか。この旗印には見覚えがあった。

男二人に襟を引っ張られ腕を掴まれる。苦しさに顔を歪め精一杯の抵抗をするがそれも虚しく別の男に軽くあしらわれてしまう。
もう、なすすべはない。そう諦めたときだった。

聞き慣れた声が耳を掠めて、私は身体の芯がじわりと熱くなっていくのを抑えられなかった。


「僕のカワイイ部下に何してくれてるんだい。」


男たちは待ってましたとばかりに私の首を圧迫させる。酸素が回らない。


私はこのまま死ぬのでは無いかと意を決するも、それは私の考えまでに留められる。苦しい感覚は気づいたそのときにはもう無くて、思わず閉じていた目を開ければそこにはさっきまで下品に喚いていた男たちの屍が転がっていた。

私を包むのは温もり。そして、頬を伝うのはけして温かくなんかない自身の涙だった。



「泣くなよ、僕が助けに来てあげたんだから。」
「いつもそうです…貴方は優しすぎます…。」


全身がヒリヒリ痛む。紅覇様が私の身体をゆっくりと抱き上げようと抱えるも、傷に触れられたことで思わず口から呻き声がこぼれる。
それに彼は苦しそうな顔をした。

「ごめんね、痛かっただろうに。」


彼は腕についた跡を優しく撫でる。でもそれをされればされる程私の中では憎悪が増していった。
何も出来ず、紅覇様にさえこんなに気を使ってもらっている自分。役に立たない身体、無力の塊。それどころか彼の重荷にすらなってしまっているではないか。


自分が憎くてたまらない。


しかし彼はそんな私の心を読み取ってか、気まぐれなのか、笑いながら義手と腕との間に舌を這わせた。




「なまえ、心配しなくても君は僕の知る誰よりも美しいよ。」


だから、傷つける輩は許さない。と甘い目をして彼は言った。どうして、どうしてそんなに優しい言葉をかけてくださるのだろう。

しかし自然と私の中の憎悪は萎んでいった。紅覇様の一言が一気に頭を支配して、みるみるうちに思考が止まる。


「さ、帰ろうか。」




私はただただ頷くことしか出来なかったけれど、もう少しだけこの身体でも頑張ってみようと、そう思えたのだ。







からっぽ万歳


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