シェヘラザード様は私の恩人。魔力が尽きて倒れているところを救ってくださった。家族を失って、財産を失って、でも私にはレームの地があった。あなたを見上げていた。

「シェヘラザード様!また敵艦を一墜としました!」


こっちを向いて欲しい。誉めて欲しい。側にいたい。力になりたい。なのに、彼女は少し切な気に笑って私の頭を撫でるだけ。

「そんなに怖い顔をしないで、」

怖い顔。彼女は目を伏せて、少しだけ眉を潜めた。もっと誉めてくださると思っていたので私はしゅんと肩を竦めた。すると後ろからファナリス兵団の猛者が敵を追撃させた、報告にやってきた。するとシェヘラザード様はニコリと笑って彼に賞賛を投げ掛けた。

私は唇を噛み締める。いつもそうだった。シェヘラザード様はファナリス兵団ばかり気にかける。もっと誉めてくれてもいいのに。私だって頑張っているのに。



私は拾われた身。彼女は全てのレームの民の母。子供はみな、彼女からの誉れ1つを求めて我こそがと血と汗を流して働いた。良い子でいないと悲しんでしまわれるから。

だから私も必死で働いた。軍の一員として鍛練は欠かさず、男の中に混ざって実績をあげた。身体中に出来た傷や痣も私にとっては勲章。私は"良い子"だ。

なのに。どうして。



そんなに哀しそうな目を向けるのですか。



「なまえ、私はなまえが笑っているのが私の幸せなのよ」

すると、シェヘラザード様は私の肩にそっと手を置いた。



あなたが笑いかけてくれるから、私は笑顔でいられるんです。その瞬間に筋肉が緩む。一瞬にして肩の力が抜けて、今まで自身の肩に相当の力が込められていたことに驚いた。


「そんなに気張らないで。貴女には貴女らしく凛としていて欲しいの。」

「でも、私はシェヘラザード様の力になりたいのです、」

「心配しないで、なまえやみんながレームを思ってくれるそれだけで私の生きる力なのよ。」



そして、シェヘラザード様は私の傷だらけの肌をそっと撫でた。その行為が私に無償の安心と安らぎを与える。シェヘラザード様は"なまえやみんな"と言った。

そのことに少しの寂しくなったけれど、嬉しくもあった。シェヘラザード様は私一人のものではない。でも、その代わりに皆と同じように私のことも愛してくれているのだ。



寵愛を、してください


prev / next
[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -