あの日、

─初めて人前で泣いた日以来、
ジュダルは来ていなかった。





彼がやっと牢屋に顔を出した
のは一週間後のことだった。







「あ、ジュダル!久しぶり」


「…」





しかし、
彼の様子は可笑しかった。

いきなりナオの腕を引くと壁に押し付ける。





「ちょっ…何!?」

「うぜぇ、」






ナオはいつもと
違うジュダルの様子に戸惑う。



手には氷柱を握っていて、
鋭い先は私の首もとに向いていた。






「お前を殺せば戦争になるよな」

「…は?」


「俺は戦争してぇんだよ!」





そう言って氷柱を振りかざすと、
ナオの頬から血が流れた。







+++++++++++




ジュダルはイライラしていた。


─ナオの国が一向に動かない。


アル・サーメンが手を回してる為、この国は煌帝国との貿易で破綻寸前のはずだった。




だが、判断はいたって冷静で
銀行屋の誘いに乗らねぇし。


おまけに国民は王族を信頼しきってると
あらば黒ルフすら生まれる気配がない。





(なんなんだよ、この国は。)




そして、一番イラついたのが
人々の反応だった。







「ナオ様は自ら人質になって下さっているのに私達が耐えなくてどうするの!?」


「貧しいくらいなんてことない!」

「国王万歳!!」





国民は皆口々にそんなことを言った。




おまけに国王、
──ナオの父親なんて






「人質であるナオの為にも
我々は絶対に協定は破らん。


…万が一があったとしても
私がかわりに死ぬ覚悟はある。」





なんてほざいていた。



絞め殺そうかと考えた。

─さすがにそれはしてねぇが。







…ナオは自分が国から
見捨てられたと思っている。


まぁそれも当たり前だ、


長年国を離れる彼女が辛くないよう
そういう態度をとらない。






しかし実際はどうだ?


こんなにも愛されているじゃないか。








(もしこのままいって、ナオが解放されたら)

(彼女は二度と戻ってこない)













「…そうなる位なら今殺してやるよ」


「…なにを言ってるの!?
もしかして、協定が破られたの?」





ナオは切った痛みに
顔をすこし歪ませながらも、


濁りのない眼で俺をみた。









それは哀しく美しい蒼──








ジュダルの手にはナオの
頬から滴る赤黒い血が垂れる。








ジュダルは彼女から手を離した。







「…ジュダル?」


「悪ぃ、今日は帰る。」




「あ、うん…」









(俺にアイツは殺せない。)








アイツは殺そうとしても尚、
俺を恨まなかった。

いつもと同じように俺をみた。







──彼女のその清さを
いつまでも保っていたいと思った。


 (汚したくない、汚せない)
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