格子の下にある隙間から目の前に 無言で差し出されるお粥と塩。 軽く会釈をし、それを受けとると 差し出した重厚な武装の男は どこかに行ってしまった。 爪で壁に短く線を引くと 粥に手をつけた。 塩味しかない、素っ気ない味。 それはまるで今のナオの 生活と同じだった。 寝るのも起きるのも気まぐれ。 ただ閉ざされた空間で同じこと を何度も何度も繰り返す。 それは祖国の人質としてこの 煌帝国に差し出された私の"運命"── 1日3回出される食事の度に引いてきたので、壁には何十本もの線 ───それだけが日の光の当たらない 暗い牢に閉じ込められ、 かれこれ数年経ったということを 知る唯一の手段だった。 牢屋にいる限り、ナオにとって 常に星の光さえの無い夜と同じだった。 終わりの見えない、 長い長い夜 それでも、心のどこかできっと 誰かが助けに来てこの平穏を 崩してくれると信じていた。 そうでもしないと 気が狂ってしまうから。 しかし それがまさかこんな形で訪れようとは──… 「よぉ、」 格子を乱暴に開け中に入ってくる青年、 ナオにお構いなしに 牢屋の固い床にどかっと座っている。 ナオの頭はフリーズして状況を 理解するのに時間がかかった。 「お前は人質か?」 「…まあ、そうですが」 「じゃあお前を殺せば戦争だな」 彼は楽しそうにそう言って魔法で 氷柱を出すとそれをナオの首にあてた。 (…?) (まず何しに来たんだこの人) (というか、私、死ぬの!?) そんなことを考えて、しかし どうすることもできずナオは 自らの身を目の前の青年に委ねた。 彼はニタリと笑い、 ナオは静かに目をつむった。 ──しかし青年はそんな少女の首筋から氷の破片を離す。 「つまんねぇな、少しくらいにビビれよ」 「いや、私伊達に人質やってないですから」 「どんな自慢だよ。 別にまだ殺す気はねぇけどな」 なんてヘラヘラ笑っていた。 (…まだ、なのか) 「と、いうか貴方は誰ですか?」 フン、と鼻で笑いながら 彼は自信ありげに答えた。 と同時に、ナオは彼に敬語を 使っていて良かったと心から感じた。 「俺はマギだ。」 (終わりなき夜) |