抜け出せた、と思っていた。

皆に無視され
自分の存在を疑問に思い

それでも印を押し続ける毎日から。



しかし間違いだったようだ。



目の前の膨大な数の資料をみて
ナオは思わずため息をもらした。







だが、ナオが
資料に手を伸ばした時──





「ナオさん…!
勝手にいかないでください!」




スパルトスがナオに
寄ろうと、歩いてきたのだ。





「広いですから、
出れなくなりますよ」


「大丈夫ですよ。

それにスパルトス様も
お仕事あるのでしょう?」




しかし、ナオの問いかけ
の答えは意外なものだった。



「…?
私も一緒に整理をやりますが?」




ナオはてっきりまた一人で
と思い込んでいたので、

スパルトスの言葉に
驚きを隠せなかった。




「…い、一緒に
やってくださるんですか?」



「女性一人にこんな重労働を
任せていたら私はクビですよ。」




彼は未だにナオの目は
見てくれないが、その口調は
今までの誰より優しかった。




(私は、嫌われている、はず。)
(なのに何故…)



ナオは胸の奥がきゅう、
と握られたような感覚に襲われた。


数日間の間で鈍くなってしまった
温かさがほんのり甦る。






「…スパルトス様!
いらっしゃいますか?」




と、そこにノック音と女性の声がして
後からとある女官が入ってきた。


彼女は目が大きくて、睫毛が長く
スタイルも良くどこか妖艶な
雰囲気を醸し出している。



ナオはきっと国王の趣味だろう
などと頭の隅で考えた。




「スパルトス様っ!」


「…なんでしょう?」


「お疲れでしょう?
お茶をお持ちしますっ」


「いえ結構です。書庫ですし。」




しかし、そんな女官をスパルトスは
うつ向きながら軽くあしらった。


女官はため息を1つ付き、
尚も猫なで声を発する。





「スパルトス様ったら…
本当に真面目なんですから」


「仕事ですからね。」



「でも目、位見てくださっても
いいじゃないですか…!」



「すみません、
そればっかりは勘弁して下さい。

あと大切な資料ばかりですから
軽々しく、書庫には
立ち寄らないで下さいね。」






スパルトスの厳しい言葉遣いに、
さすがの女官も退出した。


しかし、ナオは
そんなことなど気にもとめない。


彼女の興味は、先程の
スパルトスの言葉の真意である




───たしかにスパルトスは
女官とも目を合わせ
ようとはしなかった。



てっきり、自分だけに
と思っていたのだが。




女官が書庫から出ていったのを
確認してナオは

真相を確かめようと
スパルトスに話しかけた。





「あの……」


「…どうかしました?」



やはりナオからは目をそらしたままでスパルトスは顔を上げた。



「目を合わして下さらないのには
何か理由があるのですか…?」


「あぁ、そのことですか…。

実は故郷からの癖で
家族と婚約者以外の女性とは
目をあわせられないんですよ」

「女性みんな、ですか…?」

「えぇ、不快にさせてしまって
いたらすみません…。」




スパルトスはそういって
苦笑いをした。





「…っひっく」


「ナオさん!??」





ナオの頬には無意識の
うちに熱さが滲みていた。



そしてスパルトスは
いきなり泣き出したナオに
驚き、駆け寄る。


俯くナオを下から覗きこんだ。




「どっ…どうしましたか!??
私が何か失礼なことを…」



「い、え…、ちが、…」




ナオは嗚咽を堪えながら
必死に訴える。


もはや数日分の想いが、涙とともに
一気に溢れて止まらない。





「もう、シンドリアに
居場所ないと、思ってました」

「…」



「スパルトス様も、わざと、
私を避けていたとばかり…

…でも、違いました。

それが…うれしくて…」





そう言いながら顔を上げると
そこには真剣な面持ちの
スパルトスと初めて目があった。






頬を伝う

(溢れる想いと共に)

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