埠頭のワルツ




大きなけものが、俺の上で肉体を貪っている。
下から突き上げるたびに艶かしい声が下腹部を刺激して、呼吸を整えることすら忘れたように荒っぽく上下する肩と同じリズムで薄暗く光沢を放つ赤い髪が揺れる。
しなやかに隆起した筋肉は見てて惚れ惚れするくらいで、この体が自分との行為で快楽を享受していることに酷く興奮した。
文明も常識も何もかも忘れたように行われるこれはいっそ搾取的なのに、こいつに喰われていることが何故か奇妙に俺を安堵させた。頂点が近い。

セックスのときの桜木は、まさしく獣だった。それも、とびきり美しく獰猛な。



横で眠りについている桜木の頭をゆったりと梳いて、うすく聴こえる緩やかな呼気に自分が充たされていくのを感じた。まだ窓の外は暗い。ゆっくりとベッドから抜け出して服を着て、棲処を後にした。

外の空気を吸いたかった。
俺の状態に関わらず、海は凪いでいた。

腕を後ろで組んで、ぐいっと背筋を伸ばしてみる。体に熱が溜まっている。

(あつい…。)

充実感、のような。
達成感、のような。
もしくは与えられるという行為の幸福。
支配することの悦び。

(あつい)
桜木とこういう関係になれたのは、俺にとって良い事だと思った。
いつでも桜木は見てて飽きないけど、俺とセックスしているときの桜木は一等凄まじい。
初めてしたときから、それからもずっと、悦に喘ぐ桜木を見る度に(俺ってこんなに興奮できるんだ)、と新鮮に驚く。
お互いに毎回死ぬように体を重ねる。
それは多分桜木の性格で、俺がそれに乗るからなんだろうけど。

群青の水面にきらきらと青が映える。
月も出ていないのに、星だけが煌々と主張している。雲の灰色と、海の一定のリズムで、ゆったりと熱が落ち着いてくるのがわかった。

まるで劇薬のような男だ、と思った。
激情は人を魅了させ、華々しい凶暴さは強烈な彼の個性だ。気づいたときには毒されている。
あいつへの興味がいつから恋にすり変わっていたのか、もう定かじゃない。

熱の逃げ場所をつくるように深く息を吐いた。
波の流れを眺めていた。
何だかひどく心地良かった。

ふと、こちらの方向に向かって歩いてくるぺたぺたという足音。
桜木だろうな、という直感があった。

「オメーな、ふらっとどっか行くのやめろよ。どこ行ったのか焦るんだからな」
「でも探しに来てくれるだろ?」
「つけあがりやがって」

ふくっと頬を膨らませて怒っていると態度で示す桜木も、つい可愛く見えてしまう。そういうのがまたコイツを気に食わなくさせるのもわかってるんだけどな。

「海見てたんか?」
「おう」
「ふーん」
隣に立った桜木は俺と同じように海を眺めはじめた。多分コイツには何で俺が海を見ているのかとかもさっぱりわからないんだろうけど。それでもそういう生き物のように水平線に目をやっていた。
愛しいな、と思う。
まだ海を確かめていた桜木の唇に軽くキスを落とす。

「帰ろうか」

桜木は一瞬海に視線を揺らしてから、「おう」と返事して俺の足跡に着いてきた。
暗暗としてひとけのない水際に、俺と桜木だけ並んで歩いてるのが、とても特別のように思えた。

「海なんか見ても楽しくないだろ?おまえには」
「むっ。…んなことねー」

くく。意地っ張り。いや負けず嫌いかな。
多分桜木にはずっと俺の見方なんてわからないだろうけど、親切にもそれを教えてやったりなんてしない。
二人分の足音が心臓に心地いい。
空が白くなりはじめている。
永遠みたいな夜だった。






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