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『ポケトーーク……』

ハウがリモコンを操作するとテレビからキャラキャラと笑う会場の観客の声が響き、そのあとMCとゲストの声が聞こえてくる。自分ではあまり見ない類のその番組を楽しそうに眺めるヨウは、そわそわと足を組んだり崩したりしていた。

ここはヨウの家だ。ハウがどこかに3人でお泊まりとかしたいねー、なんて言うからじゃあとりあえず誰かの家か、ということになってじゃあ僕の家でいいなら、とヨウが名乗りをあげたのだ。

『ってやだあ、それモンスターボールじゃなくてビリリダマですよぉ!』

今人気らしい女性タレントが言う。続いてぎゃあ!とそれが売りらしい古株の芸人がビリリダマの電撃に打たれ、騒いで、おちゃらかしていた。ヨウはこんなのが好きなのか、と横目でヨウのほうを見るとヨウだけでなくベッドに寝そべってパイルジュースを吸っているハウもあはは、と笑っていた。というかお前は他人のベッドでジュースを飲むな。

「あはは、おかしい」

涙をこすって笑うヨウは本当に楽しそうだ。普段彼は穏やかに笑むことはあっても単純な笑いから破顔するということはめったにないのだが、なるほどこういう番組には弱いのか。
小さな口を目一杯開けるので普段は見えない彼の歯肉や八重歯がちらりと覗き、なんだかドキリとする。普段笑わないのでそういう体勢がないのか、ひとしきり笑い終わった彼はまるで過呼吸にでもなっているのかというくらい必死に息を吸い込んでいた。

「あ、お風呂沸いたっぽいから誰か入る?」
「オレはまだいい」
「ヨウが入らないならオレ入ろっかなー」
「あ、じゃあ先入っていいよ。下行って階段右に曲がったところだから」

じゃあお先にー、とハウが着替えを持って出ていった。
ハウを見送りまたテレビに専念したヨウは食い入るように画面に見入っている。

「目悪くするぞ」
「これくらい平気だよ、それよりグラジオも見ようよ」
「オレはいい。テレビを見るお前だけで充分おもしろい」
「えー、それどういう意……う、くく……」

ゲストが語っているのを聞きながら半ば上の空でオレと会話していたヨウは、あまりこちらへと興味はないらしい。オレとしても自分の時間が持てるときに執拗に話しかけられるのはあまり好まないためこれはこれでいい。ヨウも楽しそうなことだし、オレはもともと個人主義なのだ。お互いが好きなことをして楽しめるならこんな時間も密かに気に入っている。

「ねえ、今の見た……?ゲストの△△さんがさあ、あ、はは。無理」
「見てない。…そんなに面白いのか?」
「もう、見てよ。一緒に見よ」

まだ堪えきれないらしい笑いを湛えながら俺の本を奪うなり、それを自分の横に置いて抱きつくようにオレの肩を掴んでくるので仕方なく画面へと目を向ける。内容は幾分俗っぽかったが確かにこれはヨウのような素直な人間には面白く映るだろう。実際オレも予想以上に楽しんでいた。

「あ〜〜むり、ほんと、グラジオもみて……」

だから見てるじゃないか、と言おうかとも思ったがそれはオレに言っているというより最早独り言に近かったのでそれに返答をするのはやめた。
オレを包むようにオレの背中でくふふ、とかあはは、とか笑うものだからたまに逃しきれなかった吐息がオレの首元や耳に当たってなんだか変な気分になってくる。コイツが変な声で笑うのでなおさらだ。

持ち前のネタを披露したゲストの一人にすかさずMCが突っ込むと、オレがフフ、と笑うのと同時にたまらず倒れ込むようにヨウが突っ伏した。

「あっ……あ、もう、む、むり、……」

声を出すどころではないらしく、普段よりも大きく開かれた口から漏れ出す空気の音が大きく聞こえて、最早笑いすぎて窒息するんじゃないか?というほどに笑っていた。いや、それはむしろ笑っているというより陸で溺れてるように見えるというか、もっと形容すると、……形容すると?なんて言おうとしたのかどう言おうと思ったのかなんだかもやもやしたままにするのも嫌で必死に何を思い出したのか言葉に置き換える。この顔は、この声は、まるで。
(まるで、そういう行為でもしてるみたいな顔だ)

意識するなり自分が何を考えていたのかわからなくなって急速に顔に血がのぼる。オレはヨウのことをそういう目で見ていたのか?いや、こんな変な笑い方をするこいつが悪い。ぜんぶヨウがわるい。
未だに笑いを逃すように必死に呼吸をしているヨウはこっちのことなんかこれっぽっちも気にしちゃいない。それどころではないだろう。普段がもっと大人しいぶん、すごくドキドキした、無駄に。無駄に!

「おいヨウ、お前その笑い方やめろ」
「えっ……な、なん……で、笑い方ってな、ひっ、う〜〜……。」
「そういうのだ、そういうの。やめろ、オレだからいいが他の奴ならあわや大惨事だぞ」
「だ、大惨事」

笑ったときの涙だろう、潤んだ大きな目がこちらを見る。まるで自分にはなんの責任もありません、とでも言外に訴えられているような気がして、腹が立ったのでそのままキスでもかましてやろうか、と立ち上がりかける。

「そういう……してるときみたいなか」
「出たよ〜〜〜!グラジオかヨウ風呂どうぞだって、あれ、グラジオ何してんのー?」

いいタイミングなのか悪いタイミングなのか知らんが絶妙に入ってきたハウに絶句して項垂れた。
こいつは、いつも……いや、よかったのか。何もわかってなさそうなハウを横目にまた読書を再開した。





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