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ざわざわ。ぎゃあぎゃあ。サッカー部のサロンにはメンバーが集まって口論していたが、その内容はサッカーとは関係なく、むしろかけ離れたものだった。椅子に腰掛けて輪から離れつつその会話を眺めていると、ふとおれの足に影がさした。

「暇そうだな」
「あ、白竜」

立っている白竜を見上げるとゴムで括られたたなびくツートーンの長髪越しにLEDの光が差し込む。白竜はゴッドエデン計画の廃止に伴い雷門中へと転校してきて、今では立派な雷門イレブンの一員だ。

「しかし、お前が姫役とはな……」
「あ、あはは……」

そう。今は文化祭でのスタンツ決めをしていて、サッカー部の紹介とはまた別に出し物をしなくてはならないのだ。今年のサッカー部は体育館のステージを割り振られていて、必然出し物もそれに見合うものにしなければならない。

今回の出し物は劇をやろう、と発案されて内容も白雪姫でほぼ決まった。
しかし、どうやらマネージャーはクラス業務などで多くは出られないらしく、急遽登場人物が全員男、という異例の白雪姫になってしまった。
しかもその白雪姫役におれが選ばれるとは誰が想像するだろう。てっきり霧野先輩がやると疑わなかったのに、霧野先輩は継母役のほうをやるそうだ。
言われてみれば納得はできるけれど、それでも輝とか神童先輩とか、おれよりもっと適任の人はいそうなのに。

「白竜も似合いそうだよね」
「何がだ?」
「白雪姫。おれより」
「し……?!?ば、馬鹿言うな!だれが女装など…」
「おれだけど……」
「ぐ、ぐ……すまない」

継母と姫がスムーズに決まったのであとは王子と小人役を決めるそうだ。女役が決まったんだから王子なんて誰でもいいだろう、と思わずため息が出てしまうけどおれにとっても関係ないわけではないし、まあなるべく一年生から決まってくれたらいいな、っていう希望はあるけど。
フリとはいえキスまでするのだ。そりゃあ先輩にそんな申し訳ないこと頼めない。
しかしそれも虚しく王子役は神童先輩と剣城、あとどこから矢が立ったのかここにいる白竜まで候補に上がっているようだった。

「俺は裏方でいいんだが……」
「白竜もかっこいいんだし、やればいいのに」
「…やってほしいのか?」

じ、と白竜の紅眼がこちらをみつめた。まいったな、そういうつもりじゃなかったんだけど。でも他の人よりは白竜のほうが安心するかも、と素直にそう告げると白竜はそうか、とまた視線を戻した。演技も上手そうだし、なにより王子映えしそうな顔だよなあ。すい、と白竜は輪に混ざり、俺がやってもいい、と立候補していた。


結局、部員達でも決めかねじゃんけんで決まったようだった。王子役に決まったのは神童先輩で、小人役は信助を筆頭にサッと決まったらしかった。小人役は出番もセリフも少ないし、それなら……と挙手する人間が多かったのだ。

「よろしく、天馬」
「いえ、おれのほうこそ!神童センパイの相手がおれなんてちょっと申し訳ないんですけど…」
「いや、そんなことはない。むしろ嬉しいよ」

にこ、と微笑むさまはまさに王子様だ。そう言ってもらえるのは嬉しいけどおれ、茜先輩や神童先輩のファンの人に殺されないかな…。

「天馬、衣装合わせするよ。演劇部に借りに行ってきたの」
「ありがとう、葵」

葵から衣装を受け取り神童先輩や霧野先輩と一緒にロッカールームで着衣を始める。う、なんというか、やはり女物の衣装だ。ふんわりとした短めのスカートはひたすら脚を不安にするし、大きく開いた首周りも正直恥ずかしい。
神童先輩に背中のチャックを上げてもらって、赤いヒールを履く。慣れない感覚にうっかり転びそうになってしまい、おっと、と霧野先輩に受け止めてもらった。うう、情けない。








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