その欲の名前は



「ねえ、人間は結婚にどういった意味を求めてるの」
カザリが俺の腰に手を回しながら聞いてくる。だからって本当に興味がある感じじゃなくて、たまたま口が空いてたから聞いたみたいな喋り方だった。

「どうって…幸せなことだろ」
「ただの儀式に意味を求めたがるのなんて、人間だけだよ」
「意味があるから儀式なんだろ」

唇が重なる。角度を変えて、ただ擦り合わせるみたいなそれを何度もする。俺はむず痒いけど、グリードに五感はないから何が楽しくてこんなことをしているのかわからない。もっと言うなら愛だって感じられないはずなのだ。でもカザリが時折自分をこうやって恋人のように扱いたがるわけを、俺は深く考えないでいた。グリードって、元々そういうものかもしれない。

「オーズはあの女の子と結婚したいと思うの?」
「あの女の子って…比奈ちゃんか?なんでそうなるんだよ」
「男は好きな女と結婚したいって聞いたけど」
「確かに比奈ちゃんのことは好きだけど…そういう好きじゃない。もっと家族に対するみたいな…」
「ふうん、人間って面倒だね」

聞くのが面倒くさくなったのだろう。俺の言うことを遮ってカザリは服に手を入れて俺の肌に手を滑らせた。不自然な、無機物的な冷たさに一瞬体がこわばるものの、俺の体に肌を当てているうちそれはだんだんと中和されて、おれの温度と同化していった。

グリードは愛を知らない。欲しい、といった欲望しか抱けない。同情の気持ちもあるのかもしれなかった。少なくとも、知りたい、という欲でのみ俺を探るコイツを、俺は跳ね除けられないでいた。
やがてカザリの手が俺の胸の突起に触れて、へんな声が上がる。俺よりも若干小さいカザリの体にしがみつくように快感を逃がして、そのうち弄るのをやめたカザリの手が下まで伸びてくる。

「僕達は、人間の好きはわからないけど…でも僕は、君のこと嫌いじゃないよ。もっとも、火野映司っていう人格に限った話だけど…」

カザリが楽しそうに口角を上げる。いつものように深くまで読み取らせない笑みだ。
でもなんだか俺は、それだけで満足できる気がしていた。




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