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星屑の味

「ね、貰ってくんねえかな、おれの処女」
ぼくはびっくりして、2、3回ゆっくりと瞬いたあと、遅くなってから「は?」と息が出た。気を紛らわすために点けただけのテレビの、画面の向こう側なんか知らないしょうもないバラエティだけがぼくたちを置いて時間を進めている。


土曜日の夜。世間一般遅い人はこれから夕ご飯を食べるのかな、って時間。仗助は雨に濡れてぼくの家を訪ねてきた。いつもやかましい表情筋はなりを潜めて、美術品みたいな造形だけが彼女の美貌を主張していた。御自慢のリーゼントも雨で解けてしまっている。
ぼくはいろいろ聞くこともできたが、なんとなく野暮ったい気がして、黙って家に上げてやった。使っていいタオルとTシャツだけ置いて、何も喋らない彼女を風呂場に突っ込んだ。ひんやりとしたフローリングに足裏の体温を持っていかれながら、ぼくは彼女のシャワーの音を聴いてなんだかそわそわとしていた。


ぼくはレズビアンじゃない。彼女と恋人同士でもない。知り合って一年以上経ったが初対面から距離感は変わってない…ように、思う。ぼくは彼女のこといけ好かないガキだと思っているし、おそらく彼女もぼくのことを思い通りにならない大人だとか思っているはずだ。依然険悪。変わりないし、おそらく永劫ぼくたちの関係は変わらないだろう。…この状況であっても。

ベッドの上で仗助はぼくの用意した大きめのTシャツと、パンティだけの姿だった。普段着のぼくのほうがおかしいように思える。仗助の豊かな胸の上のTシャツにうっすらと乳首のラインが浮かんでいる。思わずぐびりと喉が鳴った。まるで初めての彼女を前にした童貞のように、ぼくの心はいやに浮き足立っていた。可愛い女を見て可愛いと思うのは当然のことで、だから中身があの気に食わないくそったれだろうとぼくの美的信仰が彼女を女神のように捉えてしまっても、なんにもおかしくない。…ムカつくことに。仗助の星屑みたいな瞳は急き立てるようにぼくをつめたく射抜いていて、ぼくは上の空に仗助の睫毛の長さに感心していた。

「…きみにはぼくが男に見えているのかい」
「まさか。センセーもそう見られたいわけじゃあないでしょ」
「…二人きりで、ベッドの上で、ぼくが想像している処女に食い違いがあるのか?」
「ないと思いますけど」
「じゃあ尚更相手がおかしくないかってことを言ってるんだよ」
ぼくと仗助の距離、およそ人間ひとりぶん。間接照明だけの薄暗いベッドサイドで、ぼくたちはその距離が縮まるのか駆け引きをしている。どちらかが身を乗り出せば、一瞬で張り詰めた空気は恋人のそれになってしまう。
「俺は、露伴がいい。俺に寝室の場所教えてくれた時点で、てっきり同意だと思ってたんスけど」
ぼくは喋れない。ただこの少女が何を思っているのかに興味が湧いて、寝室に連れ込んだのも事実だったから。そしてそれには、5ミリくらいの下心も孕んでいた。
「露伴は、女の人としたことある?」
「…ないよ。」
「俺、露伴の童貞がほしい」
「ぼくにペニスなんか生えてないぜ」
「指でいい。露伴に、あげたい」
仗助がぼくの手を取って、恭しく自分の乳房の上に載せる。人の胸を初めて揉んで、脂肪の柔らかさに頭が沸きそうになった。
「いいんだな」
「どうぞ」
ぼくは仗助のうえに覆いかぶさった。普段見上げているその身長差は、ベッドの上なら関係なかった。




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