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切なげな吐息が漏れている。2つのものを同時に扱いている俺の手から、既に粘度のある水音が続いている。桜木の腰が揺れている。
ふう、ふう、と息を荒げて顔から余裕がなくなっていくのは、そろそろ達しそうなときの桜木がきまってする表情だ。

いつもは獣のような鋭い目付きの桜木が快楽に溺れるさまは、疼痛のような興奮で俺を掻き立てた。
恍惚にひける桜木の腰を逃がさないとでも言うように掴んで、亀頭まわりを重点的に擦る。

桜木の悲鳴のようなかすれた喘ぎ声が上がる。






最初は舌を使ったキスだけだった。
気が向いたとき病室や海辺にふらりと顔を見せるようになった俺に、桜木は歓迎しつつ、たまに無意識に甘えるように身を擦り寄せるときがあった。

言葉にしない桜木なりの合図なのは明白だった。

そういうとき、俺は与えるようにゆっくりと愛情のような快楽を覚えさせる。
桜木の目が蕩けて、次第に考えることをやめたように俺のすることだけを受け取るようになる。

回数を重ねるうちにどちらともなくこの行為は深くなっていった。
桜木がそれを欲していて、俺が与えたからだった。
何回目かのキスの途中で桜木が怯えたように体を強ばらせたから、原因を探ると桜木の中心がゆるく熱を持ち始めていた。

「触ってほしいか」と聞くと、やはり桜木はあの強い眼を観念するように揺らしたから、隠そうとする桜木の手を退かして、手で助長させていく。
他人の勃起した性器を見るのは初めてだったが、桜木のそこは大きさのわりに初心な色で、おそらく経験もなさそうだった。
あまり嫌悪感はなかった。

感じるのを悪いことだと思っているのか、ぐずるようにこっちを見上げる桜木の顔は、俺の好きな表情だった。
見下げる窓の外からは道すがる人間の呑気な話し声がする。遠くで、少年たちが遊ぶ声が聞こえる。
俺とこいつしかいない病室で、声を抑えながら悶える桜木のまわりの空気だけが濡れていることが奇妙にエロチックだった。

桜木が俺の手で達したあと、俺は名残惜しくその唇にまたキスを落とした。





それから、こういった行為のとき、暗黙のままお互いの性処理も兼ねるようになっていった。
回診の時間は決まっているとはいえ、流石に病室でセックスなんかできないから、たまに桜木がしてほしそうに身をよじるときだけ、お互いの手で慰めあったりするだけだ。
ひたすらに非生産的な行為だが、桜木と自分のを触れ合わせている間、自分でも驚くほど桜木に対して興奮していることを自覚していた。

一種の熱病のようだ、と思った。


熱が離れる瞬間の桜木が、たまに俺に抱いてほしそうな目を向けることだけ、気づいてないふりをしていた。

ただの戯れだけでここまでできるわけがないことを既に俺も納得していたが、俺は桜木にこの感情を押し付ける気はさらさらなかった。
桜木も、そういった関係になることを俺に望んでいる訳では無いことも、わかっていた。

体が離れると、甘ったるく濡れる空気を隠滅するように、俺達の関係はただの知人に戻る。

俺達は、恋人同士ですらないのだ。








 

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