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姉上からあの男を闇に落とせと命じられた私は、またあの扉の前へと立っていた。
すう、と一呼吸してから、扉を開ける。途端に溢れ出す闇と、あの時と同じ光。彼だった。私はその姿を見て束の間安心を覚え、そして同時にそのような感情を覚えた自分に激情した。私は、僕は、そのような人間ではないはずだった。
だとするならば、悪いのも全部この男だ。
この男がいるせいで姉上は苦心し、私は惑いを覚える。この男を消せば、全ては解決する。
私はいつものようににっこりと微笑む。慣れたものだ。

「やあ。ご機嫌麗しゅう」
「また会ったな。えーと…そう。アモール」

以前見た姿から変わりはなかった。以前と同じくその男は光を纏っていて、なおかつ透けていた。

「ふふ、覚えていただけていて光栄です。あれから少しばかり日の空きましたし」
「ああ…そうなのか。そうだな、確かに言われてみると、そうなのだろうな」

男の言うところの意図がわからず。おや、と首を傾げると、目の前の男はすぐに説明した。

「ここには時間の流れがない。一日も、一年も、俺には同じことだ」

男は寂しそうな顔をした。口には出さずとも、可愛い、と感じた。そうだ、悲痛な顔の方がこの男に似合っていた。


私は近寄って、彼から伸びる闇の鎖を別けていく。さながら情事の前、女の服を脱がすような気分だった。近寄ると彼の光の小宇宙は一層蠱惑的で、鬱陶しいほどだった。

「アモール?」

戸惑う彼をわざと無視して、私は彼の頬を掴む。抵抗はされない。抵抗するほどの力さえないのかもしれなかった。
そのまま私は闇の小宇宙を高める。この空間で私が小宇宙を高めることの意味など明白だった。
徐々に高まりだした私の闇の小宇宙が、彼の光を汚してゆく。次第に彼の表情が苦痛に歪み始め、口からは辛そうな悲鳴が漏れ始める。ぞくぞくと肌の粟立つほど艶冶だった。
高まる私の小宇宙は、そのまま彼への致命傷となって、彼の命を蝕んでゆく。
彼の体がどんどん透明になってくる。彼の命が消えてゆく。
ふと、彼の小宇宙が完全に闇に溶ける直前。私は彼と目があった。目があってしまった。彼の瞳は未だその光を失わず、正確に私の瞳を射抜いている!

(…できない!)

恐怖だった。私はその瞬間恐怖した。私が何を思ったのか、何に恐怖を感じたのかはわからなかった。だがその瞬間私はぐらりとよろめいて、もはや小宇宙を高めるだけの気力は残っていなかった。
たぶん私は、よろよろとそこから脱出した。そして一刻も早くこの場所から離れたかった。私を突き刺すあの瞳から、逃れられる場所に。
















 

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