羽化

※某ハビ貴鬼作品様の三次創作として許可を得て書いたもの(これ単独で読めます)







人馬宮にていつも通り毎朝の鍛錬をしていると、小宇宙による呼び掛けを感じ取った。力強い小宇宙には覚えがある。フドウだ。
もし予定が空いていれば相談があるという旨のことを伝えられる。構わないと返すと、ではそちらに向かうと返ってきた。少し待っていると長い石段をフドウが昇ってきた。陽光に照らされながらゆらゆらと羽衣がたなびいている。

「珍しいな、お前が俺にわざわざ」
「少し相談があって」

立ち話も何だと宮の奥にある私室の方へ案内する。女官に一言だけ釘を刺して人払いをしてから、椅子にかけさせた。

「聖域のことか?」
「ああ…まあ。そう、と言えばそうなのかもしれないが」
「はっきりしないな」
「貴方も少なからず気づいてはいるのだろうが…ハービンジャーと貴鬼のことで」

ああ、と納得する。お互いがそれに気づいているのかはさておいて、どちらも相手のことを意識しているのだろうということは見て取れた。だからと言って促す気も咎める気も無いから、放っておいていたが。

「意外だな…」
「何がです」
「お前も他人のことを気にしたりするんだな」
「…。相談をされて」
「…?」
「その、色恋の」

二秒ほど使って、頭の中で恋愛相談という単語が浮かぶ。フドウが恋愛相談されるところを想像して、思わず笑ってしまう。「どっちからだ?」
「ハービンジャーから」
「ああ、へえ。」まだ少しだけ笑いながら先を促す。フドウは一瞬諫めるように顔を強張らせてから、話を続けた。

「…。貴鬼に想いを告げても良いのだろうかとかを。貴鬼の態度とか、聖域の風紀の観点から」
「で?」
「わからないと言いました。君の好きなようにすればいいと」
「へえ。」

じゃあ結局何でここに来たんだ、と言外に聞く。フドウもそれを察しとったようだ。

「こういうのは、向いていないと感じて。人間の恋愛沙汰など、皆目見当も付かず」

ふうん、と相槌を打つ。フドウがここに来たわけは恋愛相談の延長だったことをやっと察した。それにしては、相手を間違えすぎている気もするが。ハービンジャーも、フドウも。
俺は少しだけ笑った。それはさっきみたいなものじゃなくて、こいつが可愛く見えてきたから。
きっと、自覚も、まだしていないのだろう。伝え方すら分かっていないはずだ。

「俺もお前と同じ意見だよ。したいようにすればいい」

席を立つ。歩み寄って、白緑の蓬髪を別けるように褐色の頬に手を添える。
ふと扉の隙間から、女官が様子を伺っているのが見えた。どうやら人払いが済んでいなかったようだ。目で伝えると、女官は察したように離れていった。

「教えてもらいに来たのだろう?」

長い睫毛がふるりと揺れていた。不安、戸惑い、それとも歓喜かな。唇が重なったとき、窓から吹き込んだ風がやわらかく扉を閉めた。







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