過去と現在のこと | ナノ
「いやー、悪いねーゴウエンジ!」
「俺には反省した人間の声には聞こえないがな……」
稲妻総合病院に不釣り合いな陽気な声は診察室中に響く、そんな陽気な笑い声に稲妻総合病院一の腕の良い医者はどこか呆れた声で頭を抱えた。
「はっはっはー、悪いな!サッカーすると怪我が増えちまってなぁ」
「ブラジルのサッカーはなんだ、軽く乱闘でもしているのか……」
若年者にして医療に長けている医者だってため息はある。患者はプロサッカー選手のマック・ロニージョ、怪我は足の大胆な挫きだったが、身体中にある生傷を見つけては消毒していて現在に至る。そもそもロニージョが日本にいる理由が豪炎寺の一番の疑問である。
「お兄ちゃん……次の患者さん待ってるよ」
豪炎寺の白衣の天使はそう言うと、我に帰ったかのように動きだす。
「とゆう訳だ、悪いが後は薬を出させる、それで良くなる筈だ。」
「悪いなゴウエンジ!」
「そう思うならさっさと病室から出ていけ、生憎今は混雑しててな」
ロニージョは白衣の天使こと夕香に連れられて診察室から出ていく。豪炎寺にとって嵐が去った後のような感覚さえある。
だがそれがひどく懐かしく感じて口元がほころぶ、そしたあいつ等は果たしてうまくやっているだろうか………そんなことばかりだ。
「豪炎寺!」
ふいに聞きなれた声で呼ばれ、弾かれたように声の主を見ると扉のところに一之瀬が立っていた。
「…………なんだ、一之瀬か…お前は外国のプロユースやらに入団したと聞いたが……」
「そうだよ、ユースは大変だよ、各国飛び回るんだから」
豪炎寺がふと思い出す。ここは病院だ、一之瀬は怪我をしたからここにいるんじゃないか、と。
「怪我でもしたのか?」
恐る恐る一之瀬に話し掛けると一之瀬はあっけらかんに笑いだした。
「怪我はしてないよ、日本のここをたまたま通りすがったから来ただけさ」
「病院は遊び場じゃあないぞ」
「そんな堅いこと言うなよ、そう言えばこの前円堂に会ったよ。」
豪炎寺は小さくも反応を示して、ただ真っ直ぐに一之瀬を見た。あまりに鋭い眼差しだったのか、一之瀬は怯んだ。
「あいつ行方不明なんだろ、今」
円堂守は記者からの会見を終えた帰りに事故に巻き込まれて行方不明となった。人々は円堂大介と影をあわせて哀れんだ。
「そうなる前になんか思い詰めた顔してたよ。」
豪炎寺は円堂が死んだとは思ってない。鬼道も吹雪も風丸も誰一人円堂を死んだなんて思ってない。
「…………………。」
円堂は祖父に似ていた。だからサッカーのプレイも似た………。
人生まで似なくてもいいんじゃないかと、豪炎寺は思うだけで円堂がどんな思いで行方を眩ましたかなど知る由もなかった。
過去と現在のこと
100827
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なんか続いてるシリーズ