日が暮れかけた教室は何もかもを朱に染めた。
まるで取り残されたように机に一人向かってノートを必死に写す吹雪とそれを後ろから何も言わず見つめる豪炎寺がいた。
無音に近い教室の外は異様なまでに賑やかだった。

サッカー部の掛け声、野球部のバッティングする音、吹奏楽部による音合わせ………だが教室はそれらとは切り離されたかのような静けさだった。


「なぁ………士郎」

彼、豪炎寺が沈黙を破るように口を開き、集中してノートを書いていた吹雪はやっと愛用のシャーペンを机に置いた。
いつもの豪炎寺らしからぬ甘い囁きだった。

「どうかしたの?豪炎寺君」

吹雪がゆっくりと豪炎寺の声のした方を向くと、不意に力強い抱擁をは受けた。すぐに豪炎寺の胸に埋まっていた吹雪はもがくように顔を出した。

じっとしてても豪炎寺は何も言わなかった。まるで時間が止まったかのような気分にさえなった。

「………豪炎寺君?」

「二人の時は名前で呼べよ…」

「……えー……だって豪炎寺君の方がしっくりくるんだもん…」

本当の二人の間柄は周りの仲間やクラスメイトからは認識されていない、というのも豪炎寺が吹雪を名前で呼ぶのは決まって二人っきりの時だけだった。
二人は密かに恋人同士であった。

「………あのさ、やっていいか?」

豪炎寺は柔らかいトーンでそう囁いた。人一倍理解するのが遅い吹雪にとって、彼の言うことを理解出来なかった。


「………やるって…何を…?サッカー?」

キャラバンでの旅で円堂の鈍感さと何でもにサッカー繋げる癖が吹雪にも感染したのか……主語が抜けた豪炎寺の質問を容赦なく質問で返した。

「…?…ヤるって言ったら、夜の………」

「うっ………うわぁああっ!ちょ………何言ってるの!」

こと細かに説明しようとした豪炎寺の言葉を遮るように制止させたのは吹雪自身だった。いくら鈍い吹雪でも下心しか見えない豪炎寺の言いたいことに気付いたのだろう。
その時の吹雪の顔は耳まで赤く染めていたが、夕日のおかげで気付かれなかったが、またも豪炎寺は平然とした顔で

「…何って…これから俺と士郎が………」

「だから……、それに豪炎寺君、いつものキャラじゃないよ…」

「…悪いが俺、もうそろそろ限界だ………」

豪炎寺は堪えるように吹雪をきつく抱き締めた。吹雪は困惑した表情で豪炎寺を見上げた。

「…でっ…でもここ公共の場だよ?」

「あぁ、そうだな……、だが問題ない」

吹雪は豪炎寺の腕の中で困惑しながら注意すると、予想もしなかった答えが返ってきた。

(きっと女の子相手ならドン引きだよな……でもかっこいいと許されちゃうのかな…)

吹雪は豪炎寺に口では勝てない分心の中で呟いた。心の中だから呟けるのであって、豪炎寺に面と向かって言うことなど出来なかった。

「場所とかもっとわきまえてよ…!」

「別に出来ればどこだっていいだろう?」

「うわっ………!ってか少しは突っ込みいれてよ!」

「突っ込むというのは…士郎の……」

「最低ッ!」

嗚呼、いつものクールでかっこいいと女子から人気の炎のストライカーは何処へ飛んでいってしまったのか………。
どうやら豪炎寺は我慢弱いらしい………もしくは我慢を知らない欲に忠実な人間のようだ……良いともとれれば悪くもとれる、今日は後者を取ろう、と吹雪はそう誓った。

それっきり二人は言葉を交わさずに吹雪は豪炎寺の腕の中にいる。教室の外から目の当たりにすればあまりに奇妙で不思議な光景とも言える。

「………士郎は嫌か?」

豪炎寺は甘ったるい声でポツリと呟いた。吹雪は知っている、豪炎寺がこうして甘えてくるのはそれだけ自分を信頼と好意に持っているということを………

「……嫌な訳じゃない…けど…」
「けど……?」

吹雪は羞恥で声を小さくすると、豪炎寺が語尾だけ繰り返す。

「やっぱ……教室じゃ…」

「……なぁ………だめか?」

豪炎寺からやっと解放された吹雪と向き合う。豪炎寺は今までになく試合の時の真剣な表情だった。吹雪は不意に思わず顔を今まで以上に染めた。

「………っ…ずるいよ…。そんな顔されたら…断れないよ…」

「士郎…好きだ…。誰よりも…」
それは一言だった、誰でも言える臭い台詞だった……だが吹雪にとって充分すぎる台詞だった。吹雪は改めて囁かれた愛の言葉に混乱したが、すぐに飲み込み、

「僕だって……しゅ…修也のこと……好き…だもん…」

吹雪は顔を染め不安気に豪炎寺を見上げた。すると一瞬だけ豪炎寺も声を失うほど顔を染め、すぐ満足そうに微笑み、吹雪を抱き上げて教室の床に組み敷いた。

「………どうやら士郎のせいでもう止められそうにないな………まぁ…止めるつもりはないけどな…」

「……ッ!いきなり押し倒さないでよっ…」

最後に理性が崩れる前に吹雪の耳元で吐息混じりな声で呟く。

「……士郎のせいだからな……覚悟しろ…?」

「え、ちょ………心の準備がッ……まっ……ッ!?」














放課後ロマンス


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甘ッ



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