出逢いは購買戦争








後江附属学校は中高一貫でエスカレーター式の学校とも言われている。同じ敷地に中学と高校が建っているだけの話で教室も離れているし、制服も異なる。
部活にでも入らない限り、互いに接触などはない。他は会ったとして図書室や購買くらいだ。




「櫂ー、今日どうする弁当?」

「購買にする」

「金持ちだなぁー……俺なんて今月ピンチでパン一個位しか買えないし」

「カードに注ぎ込みすぎた」


櫂が席を立つと彼の友人である三和は一人弁当を櫂の机で広げだした。どうやら母手製の物らしい。
一人購買に向かうが、やはり昼休みの購買の人集りは毎度眉をひそめたくなるほどに群がっている。あまり人混みが好きではない櫂にとって学生の戦争とも言えるこの行事が大嫌いだ。
その癖、朝はいつも遅く弁当を作る余裕は無いためかこの辛さを知っていながら購買に頼ってしまうのだ。ある意味で購買の思うつぼであった。


なんとか群がる学生の間を抜けようと意気込んだが、隣にいた小柄な、それこそこの群がりの中に入ってしまえば潰れてしまうんじゃないかと思う少年に目を奪われた。

どうやらこの戦争の勝手が分からないらしい。確かに一列になんか並ばない無法地帯っぷりからか初見は諦めてしまう奴も数知れない。三和もその一人である。櫂はこの青髪の少年のそうなのだろうと勝手にイメージした。

しかし、櫂はその少年から目を離せなかった。初めて会ったのに、懐かしい面持ちからか柄にも無く少年に近づいた。


「おい」

「あ、はい……?」

「購買に用があるのか?」

「はい、でも人多くてどうしたら良いかわからなくて……」

「そうか、何が食べたい」

「え? 一応菓子パンを買いに来て………」


自分でも不思議なくらいに会話が続いた。少年からしてみれば先輩に絡まれたくらいであろう。その目は不思議なものを見るような目である。
櫂は「そうか」と「ここで待ってろ」と二言を残して学生の波に突っ込んで行った。








「ありがとうございます………こんなに……」


とりあえず人酔いしそうになったからか自分の分の弁当と少年の分の菓子パンをいくつか物色し、少年を連れて中庭のベンチに腰を下ろした。
遠慮気味に櫂からパンを受け取った少年もまた少し距離をあけて座った。


「僕、中等部の先導アイチって言います………、あの、パン何円でしたか?」


アイチと言う少年は申し訳なさそうに財布を取り出していた。なんとも怯えられているようだ。


「いらない、奢る」

「えぇえええ! 悪いですよ、えっと……」

「櫂トシキ」

「へ?」

「名前」

「櫂先輩、ですか」


アイチに財布をしまわせて、取り敢えず食事をすることにした。
なかなか中高で揃って食べる人はいない分珍しいらしく、通りを通る人は必ずと言って良いほど二人を見ていた。
櫂はアイチに何故声を掛けたのか良くわかっていない。おまけにどうしてこうもアイチが気になるのか分からない。今はもやもやしながら弁当を食べる箸のスピードを早めた。








「先導アイチと話したのか」

「ああ、どんな奴だ」

「成績優秀な優等生だよ、だけどなんか人気なんだよ顔可愛いらしくさ」


アイチと別れてから教室に戻るとついぽろりと出た単語に三和はやたら食い付いた。

先導アイチは中等部の生徒で、成績はそれなりに優秀だが、運動はさっぱりの典型的な優等生だ。顔は幼さが残り、隠れファンが多く、男子なんかも彼に思いを寄せてしまうようだ。


「どうだった? やっぱり可愛いのか?」

「………ああ」

「っマジで? お前もそっち系?」


冗談半分に茶化すような口調に櫂はなんの躊躇もなく頷くと、予想とは大幅ズレた答えに三和はつい机から身を乗り出して来た。
櫂は窓の方に視線を流して何も答えなかったが意外だった三和は驚きのあまり声が出なくなっていた。

櫂は頭の中でアイチの事を思い浮かべながら、また会うとしたら何て声を掛けるかと考えた。







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櫂君が櫂君じゃない……
なんかもう別人になってる

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