君と一緒に





※最終回後





勝負は結局、櫂君が勝った。
やっぱり櫂君は強くて、大会でレンさんに勝てたのが奇跡みたいな気さえした。櫂君は「あそこでヒールトリガーが無かったら」なんて一人反省会を始めていたけどやっぱり強いことには代わりない。
僕も櫂君をダメージを五枚まで追い詰めれたけど、詰めが甘かったみたいだ。


「にしてもまさかアイチが全国チャンプの雀ヶ森レンに勝つなんてな」

「それだけ成長したってことだよ、私はそう思うよ」


三和君は圧倒的な櫂君のファイトに苦笑いしながらミサキさんに話し掛けるといつもよりも楽しそうな彼女に笑みを浮かべていた。
森川君やカムイ君は変わらずやっぱり口喧嘩ばかりしていて、でも楽しそうだった。


「行くぞ、アイチ」

「え? 何処に?」

「レンのところだ」


櫂君は僕の手を取ると、すたすたと僕を引き摺るように出ていってしまう。まだ皆に話したいことがあるんだけど三和は冷やかし半分で「櫂が誘って出掛けるなんてお前だけだ」と言って来て恥ずかしかった。店長は気を付けてね、と手を振るばかりで三和君を止めてはくれないんだ。

カードキャピタルを出て、櫂君の隣に並んで歩いた。未だに握られる腕の力は強くて、ちょっと痛かったけど今はこのままが良かった。別に痛いのが気持ちとかじゃないんだけど。


「お、先導に櫂じゃねぇか!」

「アイチちゃん!」


つい目線を上げると僕の目の前にはゴウキさんとナギサちゃんがいた。手には何も無かったけど、行く先からしてカードキャピタルなんだろうなって思った。そしてゴウキさんは筋肉質な腕で僕の首を締めるように手を回して「こんななよなよした奴が全国大会の優勝した奴か?」なんて言って来た。僕も未だに俄かに信じられない話ではある。


「アイチちゃん、おめでとう! ところでカードキャピタルにカムイちゃん居る?」

「うん、居たよ」

「先導、覚えていろよ! 男前は更に強くなり、お前達の前に立ちふさがってやる、櫂お前もだ」

「望むところです、ゴウキさん」

「そうだな…」


僕が言い過ぎたかな、と思っていたら櫂君がそう付け足した。ゴウキさんはちょっとだけ悔しそうにしながら僕や櫂君と握手を交わした。別れた後にすぐにナギサちゃんはいきなり物凄いスピードで走って行くのを見た。きっとカムイ君を見つけたんだろうな。

男前の皆とは初めてカードキャピタル以外のショップに行った時に戦った人だ。無限復活地獄には悩まされたのは良い思い出だな。


「アイチ殿!」

「ジュラシックアーミーの…」

「全国大会の決勝、良い戦いであった……我等はそんなチームと一戦交えることが出来て光栄だ」

「こ、光栄だなんて……」


まさか町中で声を掛けられるなんて思っていなくて驚いてしまった。軍司さんを始めとする後の二人も続けて敬礼をする。なんとなく恥ずかしくなってしまう。
僕はPSYクオリアに飲まれている時に彼らとファイトしたこともある。だから罪悪感も無いとは言いきれなかった。でも、その話題に一切触れては来なかった。
彼らはこの後カードキャピタルに向かって、カムイ君やミサキさんにも挨拶に行くらしい。

少し歩いて行くと駅に着いた。いつもならばもっと遠くに感じる筈なのに、今日は懐かしい人達に会ったこともあって早く着いたように感じた。
フーファイターの基地は此処からは二駅くらい離れた場所にある。別に歩きでも行けるけど今日は電車に乗りたいという断っての希望で電車で行くことになった。僕もあんまり体力が有るわけではないから嬉しい提案だった。

駅に入ると前方に人がたくさん集まっていた。何かのイベントか何かかなと思って櫂君と覗き込むとウルトラレアのミニライブを行っていた。


「コーーーリンちゃぁあん!」

「森川君?」

「あ、アイチ! 止めてくれよ、俺恥ずかしくて……」

「お前等、さっきショップに居なかったか?」

「ああ、森川の奴がニュース見て飛んで来たんだ、俺は付き添い」

森川君だけ蛍光ピンクの法被を着て、黄色いメガホンを振り回してファンの中でも一際目立っていた。多分、迷惑なんだろうな、周りの人は。
苦笑いしているうちに、歌が終わったウルトラレアの三人が僕を見つけた。すると何を企んでいるのか顔を見合わせて息を吸ってマイクを持った。


「ここで、スペシャルゲストの登場だよー!」

「なんと全国大会で優勝したチームQ4の二人が駆け付けてくれました!」


レッカさんといつもとまるで雰囲気の変わる笑顔なコーリンさんはいきなりそんな事を言った。周りのファン達からも叫びが上がって、僕は嫌な予感に汗を流した。櫂君の方を見ると、引きつった顔をしてウルトラレアの三人を見据えていた。


「先導アイチ君と櫂トシキ君よ!」

「二人共、ステージにどうぞー!」


名前を出されるといきなり叫びが大きくなり、ウルトラレアに手招きされた。櫂君は腕組みをして全く動く気は無いみたいだ。でも、僕はウルトラレアの三人にはカードを貰ったり、ショップに招待してもらったり、たくさんお礼したいことがあったから何となく無視出来なくて櫂君を連れてステージに上がった。
スイコさんに「偶然ね、それとも見に来てくれたの?」なんて言われながら肩を軽く叩かれた。「また、困ったことがあったらカードショップPSYにいらっしゃい」と小さな声で言われた。レッカさんやコーリンさんも笑って歓迎の言葉を掛けてくれた。








大変な目にあったのはあの後で、僕等が来ているのを知ったカードファイター達がファイトを申し込んで来た。勿論、用事があるから断るしかないけど、それがもの凄い人でとりあえず機転を利かせた櫂君と一緒に逃げた。「お前が余計なことを……」とか櫂君は愚痴っぽく呟きながら笑っていた。

電車に乗ってからは視線が少しだけ気になったけど、気付かれることはなく駅に到着した。まさかこの歳で有名人みたいになるなんて、思ってなかった。


「あれ? アイチ君と櫂君じゃないか!」

「チームカエサルか……」

「おや、偶然ですね、二人でどこ行くんですか?」

「ガイ? 散策するのは良くないわ」


光定さん達は揃って駅の近くにいた。こうして落ち合って近くのカードショップに行くのだと言う。そして僕と櫂君は少し話込んでしまったみたいだ。結局準決勝で何が悪かったのかを櫂君を交えて二人で話合っていた。専門家みたいに話す二人には付いて行けなくてユリさん達と話していた。
彼女達はまた半年後に向けてデッキを強化するのだと言う、加えてまた強化合宿をする約束もした。






フーファイター基地はこの前に来たばかりだった。だけど何だかこの前とは違う雰囲気を出していた、まがまがしさなんて感じられないようなそんな場所だった。
基地というより立派なビルディングの前に一人の白髪の子が立っていた。入りづらそうにでも門を潜りたそうに眺めていた。周りから見れば不審である。まさかと思って僕はこう声を上げた。


「キョウ君?」

「あぁ? うわっ、先導アイチに櫂トシキ!」

「何している」

「はっ、何って! 負け犬のレンを笑いに来てやったんだよ!」


ひゃひゃひゃ、なんて言う笑い声を気持ちよさそうに天に響かせていた。櫂君が鼻で笑うと「笑うなよ、バーカ!」とかムキになって地団駄を踏んでいた。


「騒がしい、何だ」

「何よ、レン様を煩わせないで欲しいわ」


中から警備員に紛れて出てきたのはテツさんとアサカさんだった。変わらず厳しいような鋭いような目付きではあるけれど、冷酷なんてそういう目付きでは無かった。
アサカさんは外見も中身も変わったようには見えないけれど強いて言えば櫂君を何故か全面的に敵視するようになった。彼には何故かいつも厳しい態度をとる、なんでだろう。

キョウ君は二人を見ると、怯えるような逃げたそうな顔をして眺めていた。しかしテツさんはそんなキョウ君に目もくれずに僕達に「レン様が首を長くして待っている」と告げた。


「あ、おい!」

「キョウ」

「な…何だよ、惨めだって笑うのかよ!」

「何言っているの? 早く持ち場に着きなさい、誰かにAL4の席取られるわよ?」

「は?」

「分かったらさっさと戻れ」


テツさんとアサカさんはその後は何も言わずに立ち去ってしまう。キョウ君はずっと驚いた顔をしながら二人の背中と僕達を交互に見た。


「ふ…ふん、そこまで言うなら戻ってやるさ」

「良かったね、キョウ君」

「めでたい限りだな」

「煩い! いつかお前等をけちょんけちょんにして絶対泣きながら土下座させてやるっ! 覚えてろよ!」


少し騒がしく足音を立てながらキョウ君は二人に追い付こうと走って追い掛けていた。何回も振り返って僕達を見ては何かをやっていた。
僕は苦笑い気味に櫂君の顔を見ると彼は僕の腕を掴んだ。まだ会うのは少し怖いのかな、手は震えているようにも感じた。でも櫂は僕に笑う、というよりは微笑みながらこう言った。


「アイチ……行くか」

「うん!」


そして僕達はフーファイターの門を前とは違う気持ちで潜り抜けた。







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後編に続く
みんなを幸せにしたいのと、色々妄想が掻き立てられたので……






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