それが全てでそれで全て ※カードファイトしません パロ 怪盗と探偵。 それは相容れない間柄である。 中世の時代から続く暗黙の戦いは未だに終戦は迎えないのだ。どちらも引かなければ戦いも幕を閉じたりはしない。 古き良き時代。 石畳を走る馬車は流暢に走ってゆく。あそこまで馬を操れるのはなかなかだ、と今の思考からずれた奴はそう褒めていた。 窓からそんな風景が見える部屋にはレコードに浸りながらソファーに横たわる男は寝息を立てていた。テーブルの上の花瓶には綺麗な花が生けられ、顔には新聞が被せられていて、全くもって自由な空間である。 「櫂! いるかー?」 そんな心地よい気分に浸っていた男、櫂トシキの安眠を妨げるように勢いよく、まるで体当たりするかのように部屋に入ってきたのは自称助手の三和であった。 櫂はさぞ不機嫌そうに「なんだ」と聞けば三和は落ち着きなく騒ぎ立てていた。 「あの怪盗から次の予告が来たらしい!」 「くだらん」 「はぁ? お前探偵じゃねーか!」 「それは勝手に周りが言うだけだ、なったなんて一言も言っていない」 冷たくそう三和の言葉をはねのけた。櫂はソファーから起き上がり壁に掛けてあるコートを羽織るとつかつかと出ていった。 三和は「やれやれ」と言わんばかりの顔をして歩きゆく櫂の背中を見た。 櫂トシキは先祖代々受け継がれて来た探偵の一族だと言う。櫂も勿論例外ではなく、たまに事件に首を突っ込んでは光定刑事に(あんまり怖くないが)怒られている。だがいつもああも悪態を付くのはきっと少しばかり探偵という職が窮屈に感じるからだろうか。 しかし因縁からか、彼は探偵をやっているのだ。昔の友人は実は櫂と似たように怪盗の血を受け継いで今は立派な怪盗として世を脅かしているからだ。怪盗、雀ヶ森レンを捕まえること、それが櫂の悲願だからだ。それが叶うまで彼もこの探偵という役職を止めたりはしないと三和も予想している。 櫂が向かうのは日課になりつつある街角の小さな花屋である。 前は店長とその姪で営んでいたが人手不足だったのだろう。知り合いのアルバイトを呼んだらしい。姪の方の友人で名は先導アイチと言う。櫂が探偵能力を発揮させて知り得た情報である。 彼の家はなかなかの良家だ。 今は母と妹のエミとで三人暮らしで学生の傍ら友人である店長の姪、戸倉ミサキの家でアルバイトと言うよりはボランティアに近い形で働いている。幼さが残る中性的な顔立ちは笑顔がよく似合う。 それに惹かれた客も少なくは無いらしく、戸倉ミサキと合わせて花屋の看板となっている。 「櫂くん? またお花買いに来てくれたの?」 アイチは櫂の姿を見つけると嬉しそうに笑顔を見せてそう言った。 櫂は二日前にも同じように花屋に訪れた。おかげで櫂の部屋にはいつも花が生けられるようになった。 「今日は何か買うの?」 「ああ…」 「えっと、この前は……」 「ファレノプシスだ、桃色の」 アイチは「あれ…? 白い薔薇を買ったのは?」と少し混乱気味であった。顔も名前も覚えられてこんな他愛ない話が出来るまでになった自分を櫂は誉め讃えてもいい気がした。 「何買う?」 「お前に任せる」 「わかったよ、ちょっと待っててね」 すると店の奥へと入っていた。 足場が濡れてるのに走っていたら危ないんじゃないかと言うはしゃぎようを後ろから見つめていれば店長とミサキが顔を出した。 「櫂くんいらっしゃい」 陽気な店長の声に打って変わりミサキは深刻そうな顔をしていた。この温度差に何か違和感を覚えて「どうかしたか」と聞けば彼女は口を開いた。 「昨日、警察が来たんだ……光定とか言ってたな」 「何故…アイツも花を買いに来たのか?」 「違う、怪盗から犯行予告が来た……レンとか言う奴、それの事情聴取…」 光定だって奥手そうに見えて意外にアプローチしてくるタイプだ。以前、「花屋で青色の髪の子がね」と同僚のユリやガイに話していたらしい。十分にあり得る話だが違うらしく、しかしレンと言う単語に櫂はすぐに顔を上げる。 ミサキから封が既に切られた茶封筒を覗くと一枚の紙が出てくる。なかには手書きではなくタイプライターで打たれたような規則正しい文字がと並んでいた。 それを見てつい目を見開き、ミサキと手紙を交互に見た。 そこにはシンプルに『明日の晩、先導アイチを迎えに行きます』とだけ書かれている。 「アンタのことは昨日来た警察から聞いてるよ、探偵なんだろ」 「………この事はアイチは知っているのか?」 「教えたら迷惑だの何だの言って自分で解決しようとするだろ?」 アイチの事はなんとなくイメージ出来る。確かにアイチならば人の事を気にして頼ったりはまずしないだろう。自分ことよりも人の顔色を伺ってしまうタイプだと櫂は知っている。それを踏まえてミサキは何もアイチに言っていないのだろう。 「あ、櫂くんおまたせ!」 「ああ………」 「えっと……シザンサスって花なんだよ、バタフライフラワーとも言うんだって! 綺麗だよね」 確かに蝶のような花びらが特徴の花であった。それを花束にして、櫂に手渡した。ミサキと店長は言うべきか迷っているような目でアイチを追っている中、金を渡した。 「ねぇ、アイチ?」 「何ですか、ミサキさん?」 「櫂が今日一日だけ花屋でバイトするって言ったらどうする?」 櫂さえ予想しなかった事がミサキの口から言われ、櫂は危うく花を落としそうになった。櫂はさらさら働く気は無いが店長も「それは良い考えですね」と能天気な口調で言っている。 当のアイチは「本当に!」と歓喜の声を上げて嬉しそうにしている。そこで櫂は何も言えなくなってしまう、それは良心が痛んだからかミサキが怖かったからかは分からないが何も言えなかった。 怪盗の活動は夜と決まっている。 固定概念と言う説もあるが、夜は薄暗く人気もないからか日中に比べると活動しやすいのだ。 「レン様、どうやら櫂は今回も邪魔をしてくるみたいです」 アサカは自室にレンに報告すると「またか」と言わんばかりの顔をした。キョウは「けっ、なんで人間なんだよ、金にもなんねーじゃん」といちゃもんを付けていた。 「どうなさいますか? レン様」 「関係ありませんよ、どうせ櫂に僕を捕まえることなど出来ないんだから」 レンは笑う。 ただ夜になるのを待ちわびながら。 |