七日間目の約束 昼は軽食系のカフェで済ませることにした。本来ならばワイドショーでお勧めしていた飲食店に行きたかったが、人が列を成していてとてもすぐに食事など出来ないと悟ったからだ。 その後は水族館を隅々まで歩いて見た。 優雅に泳ぐ魚に少しグロテスクな深海魚、色鮮やかな熱帯魚。見るものすべてにオーバーリアクションするアイチを見ていれば微笑ましくなる。 「見て、あの魚光るんだよ! すごいね!」 感動からかアイチは目を輝かせながらそう言った。そんなストレートに感情を表現出来るアイチが羨ましく、いとおしいとそう思った。 水族館から徒歩で来たが帰りはそれなりに疲れもたまっているだろうと思い櫂が電車で帰る事を勧めた。帰りの電車は休日ではあったがそれなりに人が乗っていたが櫂もアイチも座席確保が出来た。 学校を徒歩で通う櫂には電車など無縁である。大会の時は車が出るし、買い物ならば自宅近辺で済んでしまう。だから電車はあまり乗らなかった。 レールの上を通る小さな振動は眠気を誘うには十分である。現に隣に静かに座っていたアイチは櫂にもたれかかり小さく寝息を立てていた。自分の方に引き寄せるように背中に手を回せばアイチは更にゆっくりともたれてくる。 アイチは普段何を思っていたのだろうか。 思えば自分は誰からも一歩離れた関係を築いていた。三和も一歩手前で踏み留まっているし、チームのメンバーも執拗には追求して来なかった。 アイチだけだった。 こんなにも自分を頼って欲しい、心配させて欲しいと言葉として言って来たのは。ただ驚いたのだ。 あんなにも自分の為に声を上げて、まるでアイチ自身が悲しかったかのように泣いたのは。 今まではただアイチには変な心配をさせたくなかったと思っていた。レンのことも、過去のことも、自分自身で解決すべき問題なのだろうと思い誰も巻き込みたくはなかった。 しかし、アイチはそれさえも違うと言わんばかりに泣いたのだ。それは少なからず櫂は嬉しいと心の底で思った。 「今日、までなんだね」 「何がだ?」 「櫂君の家にいるの……」 「別にまた来ればいいだけの話だ、引っ越す訳じゃない」 「また来ていいの?」 小さく頷けばアイチは嬉しそうに笑い櫂の手を握った。 こんな恥ずかしい姿は出来れば三和達には見られなくはないが、だが今はなんとも心地が良かった。「ずっと居てくれ」なんて柄にもないことを言えばきっとアイチを困らせてしまうだろう。「後一日家にいてくれ」と言ったらきっとアイチから離れられなくなってしまうだろう。 そう思いながら斜め下にあるアイチの顔を見れば彼はまた小さく笑っていた。 |