色褪せた世界でただひとり鮮明な君











アイチが心機一転の意を込めて部屋の掃除をしようと思い、昔のもの達を整理して「いらない物」と「いる物」に分けていた。
元々殺風景で母親には家具が欲しいなら言ってと言われるが今ある本棚で十分足りるし、小物類も机の引き出しに収まる程度しかない。

そんな少ない物を整理したって何だかんだ捨てられないものばかりであまり変わらないだろう。
だがなんとなく、休みの日を使いたかったのだ。


机を漁れば、あまりの物の少なさに苦笑いしてしまう。懐かしい、と思える物は少なく寧ろすぐに何処で買ったか思い出せるくらいに新しい物ばかり。
昔に友達がいなかった事が浮き彫りになるようだ。

そんな中一通の手紙を見つけた。
あまり綺麗とは言えないバランスの悪い文字の羅列は確かに「先導アイチへ」と書いてある。シンプルな白い封を開けるとノートの端を破いたような後がある手紙が大雑把に四つ折りされていた。


アイチへ


確かにそう書かれている。
内容は小学生の作文のような内容だ。でもじんわりと思いが伝わってくるそんな文章。


『おれは遠くへひっこすことになるけど、カードをおれだと思って大切にしてください』

『たまにこっちに帰ってくる時はれんらくする。その時は会いたいからあとで電話番号を教えてください』

『もっといっしょにいられたら守るのに、なにもできなくてごめん。でもおれはおまえの味方だからつらい時はたよってください』

『櫂トシキ より』


少しばかり日に焼けて茶色くなったノートの端切れにはまだ幼い文章がある。何度も消したのか消しゴムの消しが甘いところは文字が読めたり、擦れて変に残ってしまっているところもある。

アイチは思い出した。
櫂が引っ越す前にくれた手紙、初めてもらった手紙。嬉しくて悲しかった。
あの時、初めてもらった手紙が唯一自分を虐めから救い出そうとしてくれた人からの別れの手紙だったのだから。泣きながら何度も読み返したのを覚えているし、つい手に力が入って紙の端がぐしゃぐしゃになってしまったのも覚えている。

アイチはこの手紙に返事を書いた。だがそれは櫂に届かなかった。
ずっと書くか悩んで勇気を出して筆をとり、引っ越す前日の放課後に渡そうと思ったのにいじめっこ達に冷やかされ破かれて捨てられてしまった。
その後は申し訳なさで結局櫂に顔を会わす事が出来ずに、彼は引っ越した。もっと彼に励まされたかった、電話番号も交換したかった。

でも返事を書かなければ自分の中では櫂に会ってはいけないような気がした。自分はもらっておいて返事をしないなんて律儀なアイチには考えられなかった。

手紙を渡そうと思った日、渡せなかった日はいじめっこにビリビリと破かれた手紙の残骸を見て、わんわん泣いた。泣いても手紙はもとに戻らないが久しぶりにぼろぼろと大粒の涙が止まらなかった。

珍しく夜更かしして一語一語緊張しながら書いた初めての手紙は相手に届かない。今から書いても間に合わないし、昨夜考えた文章なんて思い出せない。
電話番号だけ交換するのも良かったけど、アイチにはそんなことは思い付かなかった。





「昔、櫂君は僕に手紙くれたよね」


次の日アイチはカードキャピタルにいる櫂の向かいに座り、そっと聞いてみた。彼は一瞬何を言っているのか分からないように眉間に皺を寄せていたが、すぐに思い出したらしく複雑そうな顔をしていた。


「ごめんね」


次のアイチの一言に櫂は眉間に皺を寄せて頬杖をついた。まるでその一言に何故行き着いたのか分からないとでも言いたげな視線だ。
櫂が口を開いて問い掛けようとする前にアイチはカバンの中を漁って白い封を取り出した。住所も切手もない中、櫂トシキ様とだけ申し訳なさそうにある。
アイチがこの手紙を渡すと櫂は受け取り、封を切ろうとした。


「今は……読まないで欲しい…」


そう言われると素直に櫂は封を切ろうとするのを止めて速やかに学生カバンの中へとしまう。


「……なんのつもりだ」


低い声で彼はいつも通りの顔色でアイチに問う。アイチは少しばかり困った顔をした。


「あの手紙に僕は返事をしてないから」

「………」

「必要ないなら捨てていいから」


アイチは小さな声でそう囁くように言った。健気に笑って見せる中、横でファイトして静かだった三和とカムイが騒ぎ出した。



アイチと別れて、櫂は自分の家に帰ると真っ先にカバンの中から先ほどアイチからもらった手紙を取り出した。定規を使って綺麗に封を切ると中から白い手紙が入っている。何もかも忘れてただアイチからの手紙を開いた。


『櫂君へ

改めて書くとなんだか照れるね。
櫂君がくれたブラスター・ブレードは僕の支えであり、分身なんだよ、大切な宝物なんだ。
あの時、櫂君が声を掛けてくれなかったらと思うともしかしたら全く違う自分がいたんじゃないかなって……だから櫂君に感謝しても足りないくらいに感謝してるよ。
あれ、なんか言ってることがおかしいね。
また明日も櫂君に会えるといいな。

先導アイチ より』


下の方には数字の羅列がある。
きっと電話番号だろう、今更ながらと言う気もするが櫂は別に気にならなかった。消し後や、消した反動で紙に皺がついてしまった後もあり、アイチがどんな顔で書いていたか何となくイメージ出来てしまう。

櫂は手紙をとりあえずテーブルに置いて携帯のボタンをアイチの手紙の羅列通りに押して通話ボタンを押した。







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手紙交換って小学生の時やたら流行ったよね、後プロフィール帳






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