愛着オーナメント ※子櫂アイレンで捏造 「紹介するよ、こいつはレンって言うんだ! 変な奴だけど、悪い奴じゃないんだ」 「宜しくね、アイチ君」 「…………あぅ…」 櫂が久しぶりに戻って来たと思いきやレンと言う、黒くどこか普通とは違う高そうな服を纏う少年をアイチに紹介する。 アイチの家に押し掛けた訳でなくいつも通りぼろぼろでそれでいてぼんやりとベンチに腰掛けるアイチを見つけたからだ。アイチに会いたいと櫂は思っていたが、生憎櫂はアイチの家を知らなかった。故に良いことではないが、アイチがそこにいたことは好都合である。 アイチにレンを紹介すれば、彼は警戒しながらもアイチは差し出すレンの手を両手で握った。 元々レンがこの地まで付いて来たのは櫂が良くアイチの話をするのを聞いて興味を持ったかららしい。テツには止められていたがなんとか撒いたらしく、付いてきたのだ。 「わぁ、可愛いなぁ! なんか小動物と戯れている気分です」 「えと…」 「お、おい! いつまでアイチの手を握ってるんだよ、アイチが困ってるだろ!」 櫂がアイチとレンを引き離した。 なんとなく小さな嫉妬だ、今まで自分にしか懐かなかったアイチが初対面のレンを快く受け入れたのが何となく気に入らなかったのもある。レンは名残惜しくもアイチの手を離すと櫂を見た。 「まぁ、君が何となくアイチ君を気に入る理由も分かります」 「な、なんだよ!」 「こーんなに可愛らしいなら持ち帰りたくもなります」 がばり、とレンが櫂の制止を無視してアイチに抱きつけばアイチもくすぐったそうな素振りをしながらもレンを受け入れるように背中に手を回す。それを見てさらにむっとした顔で櫂は二人を見つめる。 「僕、可愛くなんかない……」 そう抱きつかれてすっぽりとレンの腕の中におさまっているアイチはどこかばつが悪そうに俯いた。 やっとまともに話したかと思えば自虐的な発言である。櫂はいつものことだと思いため息をついて少しばかり自虐的発言を止めさせようとする。さすがに初めて会ったレンにも悪い印象を与えかねないからだ。 「………あのなぁ、アイチ…」 「そんなことありませんよ! もっとアイチ君は自分に自信を持って堂々と構えるべきです! すれば知らず知らずのうちにアイチ君のファンも増えるはずですよ、ねぇ櫂、そう思いませんか?」 「…………そうだな」 レンのダイナマイトのような、それでいて妙に納得させられる言葉に付け足すことはなかった。しかし櫂の言いたかった言葉をごっそりレンに言われてなんとも悔しいような、手柄を取られたような気分である。 アイチはレンの腕の中から「……櫂君?」と到底男子の声とは思えない高い声が櫂に問い掛けてくる。 「あ、僕アイス食べたいです!」 「唐突だな」 「櫂奢ってください」 「ヤダよ」 「うわぁ、ケチですねぇ」とアイチを抱き締めながらそうブーイングしていた。するとアイチをベンチに座らせて何をするのかと思いきやいきなり「アイチ君にアイス買ってきてあげますね」と言いそれで済むのかと思いきや櫂の方を向く。 「お金出さないと買って来ませんよ、櫂」 「わーったよ! ほら!」 「これではたりません」 「奢らねぇよ!」 あまり入っていない財布から小銭を出せば、レンは不服そうな顔をする。しかし櫂にそういえばレンは近くのコンビニまで歩いて行った。きっとテツならば心配で付いていくに違いない。 「悪い奴じゃないだろ、アイツ」 「うん…」 「まだ苛められてるのか?」 櫂もアイチの隣に腰を下ろして、自分より一回り小さな少年に目をやる。消えない生傷がまだ彼が苦しめられていると告げていた。 小さくアイチが頷けば、返す言葉がなくなってしまう。 「僕、つらいよ……」 「アイチ」 それはたった数文字の言葉だが、言いたいことは伝わってくる。支えてやりたいが一緒にいてやることさえも叶わない。自分がいかに何も出来ない子供か思い知らされてしまう。 「大丈夫だ、アイチ!」 「……え?」 「俺が高校生になったら、この街に戻って………アイチの隣で…守ってやる!」 相手は男なのに何でこんな恥ずかしいこと言っているのか、櫂は分からないがこうしたかった。アイチの笑顔を見たいし、安心させたかった。 アイチは案の定ぼんやりと櫂の顔を見つめていた。自分の顔だけがみるみる赤くなって、照れくさくなってアイチについ背を向けた。 「……櫂君」 「え、あ……何だ?」 「ありがとう…櫂君」 ふんわりとアイチは微笑みを浮かべる。不意すぎたためかつい見惚れた上に耳まで赤くなるのが分かる。初めて見た笑顔は印象的で、よくこんな健気な子を苛められたものだと考えた。 そうぼんやりとアイチの顔を見つめていれば遠くからアイスを買ってきたレンがコンビニ袋をしゃらしゃら鳴らしながら帰ってくる。 結局アイスを食べていたら帰る時間になってしまい、アイチと名残惜しくも別れることになった。彼は別れ際、駅まで付いてきて見送りをしてくれた。 櫂と指切りをして「待ってる」とただ呟く。その顔はどちらかと言えば助けを求める顔ではなく純粋に再会を待ち望む清々しい笑顔である。 「アイチ君、可愛かったですね」 帰りの電車の中でちゃっかり付いてきたレンは満足そうにそう言った。「そうだな」と窓の外から夕日に色づくアイチのいる町を見据える。 「櫂がアイチ君好きになるのも分かります」 「…なっ!」 「君がもしアイチ君に酷いことした時は僕がアイチ君を貰いますよ」 「俺はそんなことしない」 そう言いつつ、また視界を街に移した。彼に次会うときはもっと優しくしてやろうと思いながら。 |