何かを掴んだ水曜日









次の日。
結局昼過ぎから学校へ行ってもあまり意味がないような気がしたからか行かずに終わった。

生真面目なアイチは「無断欠席」が恐ろしいのかずっと嘆いていた。だが、アイチも朝に起きられなかったのだ。
昼頃まで、二度寝した櫂に起こされるまで全く起きなかったのだ。

一昨日は早起きをしていたのに、それが持続出来ないということはアイチのことだ。無理をしていたのだろう。
櫂にはアイチがそこまでしたいのか、よくわからない。人の家に世話になるにも少し気遣いすぎのような気がした。


「お前はご飯とパン、どっちにする?」

「………パン」


一昨日の元気は置いてきてしまったのか、どこか哀しげな顔をして軽く温めた牛乳をアイチに手渡す。アイチはまだ寝呆けているのかおぼつかい手つきで「ありがとう……」と言って受け取る。

櫂がせっせと菜箸で二つ分の弁当におかずを詰める。アイチの作った弁当の彩り豊かな物に比べれば茶色いかもしれない。








「昨日はなんだ? あれか? ついにおまえらやっちゃったか!」

「意味が分からん」

「とぼけんなって! 昨日の休みはアイチ気遣ってのことだろ?」


朝、アイチと途中まで登校してからの災難だ。教室に入るなり鼻息を荒くした三和が押し寄せて興奮気味に話し掛けてきた。
確かに気遣って休んだのかもしれないな、と櫂は思うも自分が眠かったからということもある。いつも通りの渋い顔をして落ち着きない友人を見る。


「そうかもしれないな」


すると「やっぱりかー!」と声が上がる。勿論三和のものだ。
彼は朝っぱらから沈黙に満ちた教室にそう叫びを上げていた。生憎クラスでは三和は「そういう扱い」の人の為か見向きされなければお咎めを受けることも無かった。


「あーー、おまえら休日予定とかあるのか?」

「無いな……」

「ならよ、これ………この前店員のねーちゃんからもらったんだけどさ、これペアだから行く奴いなくてさ、これなら暇くらいは潰せるだろ」


手の上に二枚の短冊形の紙切れが乗せられた。よくよく見ると魚やらペンギンのイラストが書いてある。赤文字で強調するように「無料優待券」と記されていた。
どうやら何かの福引きの商品らしく、小さくこの街に存在する商店街の名があった。

視線を券から友人の顔に移せば「土産買って来いよ」と笑顔で言う。確かに休日もあんな気まずく沈黙の中、ゆっくり出来ないのはごめんだ。ちょうど良いかもしれないと思い、三和から優待券を貰い、丁寧に無地のクリアファイルの中にしまう。


「なんだよ、嬉しそうだなぁ!」

「そうか」

「お前、実はアイチとこのまま住みたいとか思ってんのか?」

「冗談はよせ」


確かに一瞬でも自分はアイチとの何か掴めそうなきっかけについ頬が緩んだのかもしれない。反論を述べたはずなのにも関わらずついついそれも悪くないかもしれないと思ってしまった。

窓の外を眺めれば少しばかり嫌な天気であったが櫂にはそんなことはどうでも良かった。










あっと言う間のような気がした学校を早足で下校し、いつもよりも軽い足取りでマンションにたどり着く。
いつもは暗い部屋は外に明かりが漏れているのを確認し、櫂は玄関を開けるとテレビの音がさらに漏れてきた。
すぐに小走りで私服に着替えていたアイチが「お帰りなさい」と出迎えてくる。今日の朝、元気の無かったアイチはいなかったかのような、それさえも忘れてしまいそうな明るい笑顔を浮かべていた。




「え? 水族館?」

「ああ、三和の奴からもらった」

「うん! 行きたい!」


アイチは櫂のお手製唐揚げを食べながら、嬉しそうに目を輝かせる。いつもより賑やかに感じる夕食に櫂もつい頬が緩んだ。
「なら土曜日にするか」と櫂が近くにあるカレンダーを眺めながら呟くとアイチはうんうんと興奮気味に頷く。

アイチが帰るのは日曜だ。
カレンダーにしてみると何故だかすぐに感じてしまう。この前来たばかりな気がするアイチはもうそんなにいられないらしい。


「明日と明後日は雨みたいだね……」

「土曜は晴れる……」


テレビで天気予報を眺めれば、アイチ達の住む地域は傘マークがついている。どうも季節外れの大雨なるらしい、そう天気予報が告げていた。明後日は土砂降りになるらしく何度もお天気キャスターが念を押していた。


「明後日は折り畳み傘持っていかないとね」







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アイチって無断欠席だけはしなさそうなイメージ





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