I love you too 櫂トシキと先導アイチがめでたく付き合い初めてから3ヶ月が経とうとしている。 周りからして見ればじれったくて見てて苛立ちさえ覚えそうな二人は今までの汚名返上するかのようなほどくっついている。 くっつけた三和本人曰く「こんなはずじゃなかった」とのこと。 「か、櫂くんのバカァ!」 アイチの泣きそうな声がカードキャピタルを支配した。もう泣いていたかもしれない。とにかく滅多なことで怒鳴ることも怒ることもしない。 多重の意味を含めて周りが一斉にアイチの方を向くと顔を真っ赤にして泣いている。三和やミサキは驚くばかりだが当事者である櫂自身もその場の状況を理解していないような顔だ。らしくないほど目を見開いてただアイチを凝視する顔はこのようなシチュエーションでなければ三和も茶化せただろう。二人は至って真面目に話していなければの事だ。 「……も、もう櫂くんなんか……知らない!」 一気に方向転換してカードキャピタルの外を飛び出していく。誰もが呼び止めようとする前に駆け出して聞く耳を持たない。アイチがなかなか無いほどの感情の吐き出し具合に三和を含む一同は動揺が隠せない。 「櫂、何したんだ?」 「俺は……別に」 「嘘つけ……アイチが怒るって相当だろ、マケミにカード取られたって怒らない奴だぜ?」 三和は固まるというよりは動かなくなった櫂の隣でそっと声を掛けた。こんな櫂を見たのは初めてだったからもあり扱い方は良くわからない。三和は困惑しながら腹を探るように質問する。 櫂も本気でアイチが怒る理由がわかっていないらしい。本人はそれでいいと思っているらしいが言葉が足りなくて誤解を受けやすい時もあればヴァンガード以外では鈍すぎることもあるだろう。 繊細なアイチを泣きながら怒らせることは容易なのかもしれない。そういう事では櫂だからあそこまで感情を表に出したのではないかと静かに考察する。 「本気で何も知らないのか? 無意識にアイチ傷つけるようなこと、言ったんじゃねぇの?」 「俺はアイチにそんなことしない」 アイチは本当に果報者だ。 三和は脳裏にふとそんなことが浮かび上がるもののそれを声に出そうなんてことは思わなかった。ついにはカウンター席から店長代理を抱いたミサキが訝しげな顔をして櫂を見た。 ミサキはアイチの味方と言うだけあり櫂に向ける視線は関係ない三和さえも萎縮したくなるほどに厳しい眼差しである。 「アイチに何したんだよ」 ドスが効いた声はつい背筋を凍らせる程度の威力だ。まだ高校生なのにも関わらずその威圧感は計り知れない。腕を組んで見下したような目で見るミサキに櫂はもちろん微動だにしない。むしろお前には関係ないとでも言いたげに睨み返していた、関係ない三和は板挟みにして。 「お前には関係ないだろう」 「関係ある、アイチは私の大事な弟みたいなものだからね」 「だとして、首を突っ込んでくるな」 なんだこの淡々とした恐ろしい会話は。 火花を散らす勢いで睨み合っていた。そんなことをしていると店に入ってきたカムイは「お兄さんが泣きながら走ってたけど、なんかあったのか」なんて聞いてきた。 「なんか記念日がどうとか……」 「アンタまさか記念日覚えてない白状な奴なの?」 ギラギラ目を光らせたミサキは表情を変えないままそう告げていた。カムイは何もわかっていないこともあり、首をひねって唸るばかりである。 「………アイチとの記念日は10日後だが」 変に真面目な櫂は真剣な顔で考えるとすぐに顔を上げてなにも言わずにカードキャピタルから飛び出して行った。 まるで嵐が去ったような気分だ、と思うしかない。一体何に納得したのか知らないがこれでアイチはきっといつもの元気な姿に戻るだろうと三和は胸を撫で下ろした。でないと櫂はこの先ショックのあまり何もしない人間になってしまうだろう。 「アイチ!」 櫂は走ってアイチを探す。 人の多いこの場は視界さえも自由を阻まれる。とりあえず目ぼしい顔を探すものの周りにはそれらしい影はない。 否は櫂にあったのだ。 櫂とあった全てを記念日と呼んだら毎日になってしまうかもしれないが、それだけ嬉しかったのだろうと解釈すれば自分もそうかもしれないと思う。 人混みの向こうにふらり、とアイチの影を見てそれを追う。 「僕、嫌われちゃったかな」 池を見据えながらそうため息をついた。気付けば自分が愛が重いのかもしれないし、些細なことであそこまで怒るのは大人気なかったと後々頭が冷えてから反省する。 ただ櫂に覚えていて欲しかっただけ、あの言葉をもう一度聞きたかっただけだ。 「アイチ!」 背中から掛かった声につい反射的に肩を揺らしてアイチは振り返るとそこには自分の恋人が、いつもより険しい顔でそこに立っていた。 櫂はアイチの腕を取るとそのまま自分の胸にアイチを押しつけた。勿論アイチは思考が追い付いていないのか初々しく頬を染めていた。 「……すまなかった……」 櫂は確かにそう言った。その後に間髪を入れずに更にこう告げた。 「……愛してる」 それはアイチが一番聞きたかった言葉であまりに不意だったからか彼は耳まで真っ赤にする。それと同時にアイチの頬から涙が伝う。 「泣くな…」 「だって、なんか嬉しくて」 2ヶ月前に櫂から「愛してる」そう言ってくれたのだ。初々しい二人にとってその言葉はとても意味を為すことに違いない。 櫂は気を抜いたような柔らかい笑みを浮かべながらアイチの涙を拭ってやるとアイチは更にまた泣きだしてしまう。 「櫂くん、ごめんなさい……僕は櫂君に酷いこと言って……」 「俺が聞きたいのは謝罪じゃない」 それははっきりとした意志表示についアイチも驚くものの、すぐに意図を理解したアイチはふんわりとした笑みを浮かべた。 「僕も、愛してる、よ」 途切れ途切れに紡がれた言葉はむず痒いが二人には丁度良いのだろう。櫂はアイチを唇を優しく奪うとアイチは櫂の背中に腕を回すのだった。 昨日嵐のような喧嘩らしきものをしていた二人に打って代わり、まるで何もなかったかのようないつも以上のバカップル具合に三和は頭を抱えた。 「昨日、何があったんだ?」 「さあね」 三和はカウンター越しにミサキに話し掛けるものの軽くきびかえされて会話は終了した。昨日とはまた違う居心地の悪さである。 当の本人達は三和の気持ちなど知る由もなく、いつも以上に密着しながら幸せそうにデッキチェックをしていた。 |