逃げずに僕を受け止めて 先導アイチはカードキャピタルに寄らない帰り道は決まってとあるルートを通る。それは決して決められているわけではない、しかしこの運命の出会いがあったこの公園を通ればカードキャピタル以外で彼に会える気がしているからだ。 彼、と言う人物は4年前にアイチを暗闇から救い上げた人物だ。すっかり現在は変わってしまった性格はわずかにほんのりと面影を感じている。 公園には決まってこの時間帯には小学生が溜まってカードゲームやら携帯ゲームをしている。 そんな傍らアイチは近くにある木製の古びたベンチにゆっくりと腰を掛けた。渇いたような風が吹くたびに夏の暑さは嘘のように感じてしまう。 一息ついて呼吸を整えた。 何となく、無意識の感だがここに来れば櫂トシキに会える気がしたのだ。会って何をしたいか話したい、とかそういう訳ではない、ただ純粋に会いたいのだ。 「櫂君………」 うわごとにそう呟いてみた。 しかし帰って来たのは風で葉が揺れる音だけで櫂の声は聞こえない。 なんとなくまぶたが重くなってそっと目を閉じていた時にはその後の記憶は曖昧だった。 「起きたか…」 次に目を開けた時にはもう日は沈み掛けて周りは薄暗い。街の街灯は徐々に付き始めていた。もう公園で遊んでいた小学生は姿を消し、周りは人気が無かった。 重い目蓋をゆっくり開くと会いたいと願っていた顔が一面にある。どうゆう訳なのか、なんて考えることはなく幸せなんだなと思うだけでまた寝ようとした。 「また寝る気か」 膝枕されているのか、櫂の顔から視線を移すと瑠璃色のズボンが目に飛び込んで来た。寝返りを打てば櫂が優しく髪を撫でてくれる、なんて幸せな夢なんだろうかとつい頬を緩めてみっともない顔をしている。 「もうそろそろ起きたらどうだ」 「ん……櫂君………?」 優しい声音で囁かれれば幸せになってしまう。嬉しくて更に頬を緩めてしまう。 しかし秋の冷ややか風は眠気さえ吹き飛ばしてくれたおかげか朦朧とする意識の中、ぼんやりと櫂の顔を見つめていた。 「あれ、櫂君……!?」 「なんだ」 「どどど、どうしてここに!」 ついに脳が今の状況を飲み込んだらしくアイチからぼんやりとした考えは吹き飛んでしまった。 先程まで緩んでいた頬は引き締まり、いつも通りの頼りない口調で質問すると櫂はアイチの身体を丁寧に起こしてやり一息をつく。 「アイチ……お前、無用心すぎる」 「えっと……?」 それって、どうゆうこと? と聞き返したかったが櫂が不機嫌そうに眉間に皺を寄せていたのを見てつい口は重くなってしまった。 「俺がいなかったら、ずっと寝てるつもりだったのか」 「ごめんなさい……、なんか気持ちよかったから」 「俺が何時間暇だったか」 その言葉に何となく胸に響いて顔を上げた。垂れて見ないようにしていた櫂の顔を不思議そうな眼で見てしまっている。 自分のために待っていてくれた、そうアイチはナイーブながら解釈した。櫂はらしくなく説教するような口調で饒舌とは言えないが少ない言葉でアイチを叱る。 「ずっと待っててくれたの?」 「ああ」 「暇だった、かな?」 「ああ」 「えっと……」 「謝るな」 「ごめんなさい」 そう制止されたことにアイチが謝ると櫂は溜め込んだ空気を一気に外に出した。それに対してまた謝りたくなったがぐっと口を押さえて我慢した。 アイチはどうして良いか分からずにただ櫂の顔を見つめていることしか出来ない。 「世話を焼かせるな」 「うん」 「心配させるな」 「うん」 「今日は俺の家に泊まれ」 「うん…………あれ…?」 よし、行くぞ。 そう言って立ち上がった櫂にアイチは逆らえない。そういえばもうこんな時間だ、母親よりもエミがアイチを血眼にして探しているかもしれないから一言連絡を入れたいと言うと櫂から携帯を借りて、今日は友達の家に泊まると告げるとエミは勿論反対するも寛大な母親からは「そう、楽しんでいらっしゃい」と声だけで分かるほど嬉しそうな口調でそういってくれたお陰でお許しが出た。 それを確認した櫂はアイチを連れて自分の家にと案内した。 公園で寝るのも悪くない、アイチはそう思いながら再び頬を緩めて櫂の裾を掴んだ。 |