ある日のベタな恋愛関係











櫂は全くもって不器用な奴だ。
そしておまけに厄介なのは大事な場面で鈍感だ、と言う点だ。
別に「好きです、付き合ってください」と女子から言われて買い物に付き合うとかと勘違いする典型的でベタな鈍感だとか、そんな甘っちょろい物ではない。自分を全くわかっていないからかそれは良く起きる。
彼は肝心な時にその鋭さを生かさないためか、誤解を招く言動やら自分が誤解するなんてことが多い。

櫂トシキと言う人物は意外に淡白そうな性格に見えるがそうではない。勿論可愛くない高校生の櫂トシキの話だ。
それはいいとして、意外に淡白じゃない、と言うのはそのクールでポーカーフェイスからは想像するにはちょいと困難なほどの本人曰く情熱的な愛の言葉を囁いている。その光景は高校の同級生はまず信じないだろう、櫂のことを好く者ならばある意味歓喜だろう。とにかく比喩するにはあまりに難しいものだ。

思い人……確実に両思いだが不毛なすれ違いを果たしている、櫂の彼女であるアイチはぼんやりしていれば彼氏はアイチの隣をまるで獲物を狙ったような鷹の眼で捉える。隣にいる俺はそんな友人を見て苦笑いしか出来ない訳だ、店員の姉ちゃんに助けを求めるような目を向けてみれば華麗にスルーして見なかったことにされた。どうやら俺に関わること自体が厄介事らしい。

さて、今日はこの二人について考えようと思う。
二人が同じテーブルに座るとそこからは何故か甘い空気が流れる、それと同時に俺の存在そのものが空気になる。「櫂君」「アイチ」で会話している彼らに俺は拍手を送りたいが此処で変に刺激を与えるとすごい形相で怒り狂う奴がいるので手を止めた。


「櫂君、今日お話があって……」


もじもじと何か言いたげに身体を揺らすアイチは櫂の制服の裾を引っ張って、頬を染めていた。
これで付き合ってないとしたらお前等が付き合い始めたらもう俺はこのカップルの視界から抹消されるのではないだろうか、有り得なくないから困る。


「あのね………」

「なんだ」


何かを言いだせないのかアイチはいつも以上に顔を紅潮させてもじもじする。それを櫂は慈愛に満ちた瞳を向けていつも以上に柔らかい口調でそういった。

たった三文字しか口にしていないがわかった。弾んでいたその口調に店員ねーちゃんやクソガキさんは動じる事はない。
彼らは心得ているからだ、それかもう諦めていると言った具合でなるべく視界に入れないようにしていた。


「櫂くん、絶対に怒らないでね……?」


控え目にそうアイチは言う。
櫂がアイチに怒るのは大体の場合は嫉妬である。俺とアイチが一緒に帰った日には彼女の方が後の祭りだったらしい。
きっとここまで念を押すのだ、きっと櫂の性格が起因しているからだろう。


「内容によってだ」


なんという亭主関白!と言ってやろうと思ったが敢えて口を開くのを止めた。身の危険を感じたからだ。
アイチは何かを決心したような顔で櫂を見る。


「あの、昨日ね…」

「ああ」

「レンさん達に誘拐されかけた……」

「…………」

「櫂くん?」


櫂の手のなかにあったカードがぐしゃりと歪んで可哀相な事になっていた。
雀ヶ森レンと言えば櫂と何かしら因縁のある相手である。櫂はこんな性格なせいもあって一見すればあまり動揺していないように見えるものの内心穏やかなはずがない。
するとがたり、とパイプ椅子が派手な音を立てた時櫂は立ち上がりアイチを抱き寄せていた。

なんだ、なんなんだこれは。
最前列で舞台を見ているようなスケールである。俺も他の客ももはやアイチもその場の状況を飲み込めていないまま櫂の顔を見ていた。


「えっと…どうしたの?」

「無事で良かった」

「心配しすぎだよ」

「今日から家まで送る」


熱いなんだこの会話、ドラマの中だけの台詞だと思っていたら案外近くにそうゆうことを言う人物達もいたものだ。
アイチ頬を染めて櫂を見た。
ある意味幸せそうな二人だが忘れているのだろうか、ここはカードキャピタルであり店には客もそこそこいると言うことを。

店員のねーちゃんが怒り狂い出すだろう。しかしそんなことさえ気にならない様子で櫂はアイチを抱き締めて幸せそうにしているのだった。







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本編が倦怠期すぎて逆にこういうのがかきたくなるよ


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