貴方は彼の心を掴んで離さない事に気付くべきです 「何かあった? 元気ないけど」 「そんなこと、ないです」 光定にそう問われたアイチはつい光定から目線を外して、テーブルに目を向けた。 アイチと光定はばったり街中で出くわし、そのまま光定に誘われるまま近くのファミリーレストランに入った。 入ったら早々に「好きなもの頼みなよ、奢るよ」なんて気前が良いことを言ってくれるも元々遠慮がちで人より少し内気なアイチはそう言われて素直に言うとおりに出来ない。 とりあえず光定が提示してくれたメニューに目を通すものの中学生のお財布事情や価値観から見てあまりに高価なものばかりだ。きっとこれが家族内のものならばアイチも値段を気にせずに頼めたかもしれないが生憎前に座っているのは歳上のしかも自分より遥かに上手な部分を持っている男だ。 「遠慮なんかしないでよ」 「……でも…」 「遠慮される方が僕としては困っちゃうけどな……」 光定は困り顔でアイチに愛想笑いをするとついアイチも申し訳ない気持ちになってしまう。 ついどうしていいかパニック状態のまま光定を見ると彼はやはり頼りなさげな笑顔を見せてくる。 アイチにはどうしてここまで光定がアイチを贔屓して優しくしてくれるのかよくわかっていない。ライバルと言える訳でなければ、ふと考えてみると光定とファイトしたことないことに気付いた。 どちらかといえば合宿中は歳の近いであろう、櫂とファイトしている姿しか目にしていない。考えれば考えるほどアイチはよく分からなくなってくる。 「……やっぱり彼絡みことで落ち込んでるの?」 「え?」 「櫂君のことだよ」 彼は意地が悪い笑顔を浮かべてアイチを見た。メニューに目を通して安い料理を頼もうとするアイチは不意な発言にメニューから光定に目線をかえる。 「そんなんじゃ、ないです……ただ、ファイトに自信がないだけです」 もじもじ顔をメニューで隠しながら呟くと光定は意外そうな顔でアイチを見ていた。自分の考えていた答えと違うものが来たからだろう。 実際この前合宿をしたが自分があの合宿で本当に強くなれたかと言われればそれはまた別だろう。 デッキはある程度強化出来たかも知れないが、ファイトの進め方や新しいカードの生かし方なんてまだよくわかっていない。 それがアイチの今の悩みかもしれない。 「そっか、彼絡みじゃないか…」 「光定さん?」 「じゃあ僕にもまだチャンスがあるってことだね」 アイチには彼が言っている意味が分からない。しかし光定が満面の笑みを浮かべてアイチを見ていて、彼が上機嫌になったことだけはわかった。 「じゃあ、僕と試しにファイトしてみるかい? 何か見えてくるかもしれないし」 「いいんですか?」 「ああ、ちゃんと僕に頼ってくれればね」 デッキを取り出した光定はアイチにそう言いながら早く選んでとでも言いたげにメニューを見る。 アイチは慌ててとっさに甘い物を注文すると光定は「可愛いなぁ」なんてぼやいている。 光定がアイチを気に入り、思いを寄せていることなどアイチは知らずに無邪気な笑顔を光定に向けた。 |