君は変わらない笑顔で ※三和とアイチ達が同じ中学出身 アイチはクラスでも真面目な部類に属し、頼まれた仕事はついつい引き受けてしまう損な性格だ。 自身が断るということがはっきり出来ないせいもあるが、頼む側もアイチなら断れないのを知って意図的に押しつけている感もある。 当時の森川や井崎もそうだった。 しかしこの頃はアイチに頼るのを止めて決められた役割をしっかり果たすいわゆる良い奴になっている。そして優等生にも部類されるアイチに勉強を教えてもらってたり、宿題を丸写しさせてもらっていたりとなかなか異色な友人関係を気付いている。 話を戻すとアイチは今日も委員会を代理として出席していた。 やたら討論に燃えていたせいもあり予想以上に長引いて、外は夏場と言えど日が沈みかけて、廊下からは夕日が差し込んでいる。 今日はエミと一緒に宿題すると約束したのにアイチはまだ学校さえでていない。心配性のエミはもしかしたら落ち着きなくカードキャピタルに押し掛けているかもしれない。 しかしアイチにはまだ仕事がある。 学級日誌を担任に届けると言う仕事だ。家に帰る前に少しだけカードキャピタルに寄ってみんなに会おうと思っていたが、外を見て諦めざる得ない状態になっていた。 「失礼します……」 気だるそうに冷房の利いた職員室のドアを引くと冷気と共に教師達の歓喜が飛び交っていた。 「あれ、アイチじゃん!」 「三和君! どうしてここに……」 教師達の話題になっていたのは三和であった。どうやら彼だけのようで他に学生の影はなく、体育教師に「イケメンになりやがって!」とか言われていた。 「先導君は三和君とは仲が良いですからね、彼はショップ大会の時にはずっと貴方を応援していましたし」 アイチの横に立つマークはそう言いながらアイチを見た。ついふと気になってしまいマークに問い掛けた。 「あれ、どうして僕と三和君のことを………?」 「え……ああ! そうだ、先導君と一緒に久しぶりに校舎を見てきたらどうですか?」 ごまかした、とアイチは胸の中で呟いていたら墓穴を掘っていたマークの突然の提案に驚く。 三和は何かピンと来たのはマークの提案に乗っかったのだった。 「たまには良いこと言うなぁ、よしアイチ行こうぜ!」 「あ、ちょっと! み…三和君!」 いきなり手を掴まれてひきづられるように三和を追って職員室を飛び出した。背中からは「先導は三和と知り合いだったのか」やら「いつでも元気だな」やら声が追い掛けてくる。右手には学級日誌をしっかり持ったままで自分の荷物は教室に置きっぱなしである。 三和は来客用のスリッパのまま外に飛び出したと思ったら人気の無い体育館の裏に来ていた。 日が落ち始めていることもあり、周りは少し薄暗く湿っぽい。ここが何なのか、とアイチが口を開けようとした時に三和は口を開いた。 「覚えてっか? ここが俺とアイチが初めて会った場所だ」 「えっと……」 「何だよ、ショックで記憶飛んじまったか? お前ここに呼び出されたことあるだろ、丁度一年前位になんのか?」 アイチ頭をフル稼働して昔を振り返る。 中学に入ってからはあまり思い出はなく、ましてや自分に都合の悪いことは綺麗に忘れていたが、掘り起こしてみると確かにあったとアイチは確信する。 「ああ! そうだった、先輩に囲まれたところを三和君が助けてくれたんですよね」 二年の夏休みに入る前に一度だけ先輩に呼び出されたことがある。 アイチはばか正直なせいもありおどおどしながら校舎の裏に行った時だ。呼び出した相手は学校でもある意味有名な不良グループということもありさらに怯える。別に彼らと面識があるわけではないが名前を割り出されていたのだ。 「僕が先輩達に囲まれた時に三和君が来たんですよね」 「まぁな……」 「あの時三和君が居なかったらって思うとゾッとしますよ」 アイチが控えめにそう言うと三和は釣られて笑ってしまう。 彼は誤解している。 不良達は本当はアイチを危害を加えるつもりはなかった、ただアイチを間近で見たかったのだと思っている。三和の知るかぎりではアイチは上級生からは悪い印象はない。むしろかわいいとか男にはなかなか使わない形容詞を多様されるほどに好印象だ。 ただつい格好付けたかったのと、本気で不穏な空気を感じとっただけの無意識の行動だった。 もしかしたらあの時から惹かれていたのかもしれない、そう感じる他ない。 「ま、なんかあったらこの三和様に頼っていいんだぜ? またあの時みたいにいつでも掛けつけてやるさ」 「三和君……」 「なんかアイチがへこんでるとさ、俺までなんか調子狂うってか…」 自分の言っていることが急に気恥ずかしくなった三和は言葉をぼかしながらそう告げる。だがアイチには本来告白にも値する言葉は通じていないらしいが急に頬が赤く染まる。 「ありがとう、三和君」 彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。 夕日に染められてそれは更に愛らしく感じてしかたない。三和は胸の奥でこの笑顔を守ってやりたいと思った。 |