蒼色の髪の乙女 ※アイチさんが女の子 この話と相反しています 物心ついた時はよく男の子の格好をしていた。顔はどちらとも取られやすい中性的な顔立ちだったから別に違和感らしい違和感は無かった。 でも男の子の格好をすると家族はよく怒っていた。 僕はどんなに男の子として生きようとしても中学の思春期辺りからはもう誤魔化しが利かないくらい男女の体格差が明らかになっている。 別に女の子が嫌いだから、とかで男の子の格好をしてる訳じゃなくてただ純粋に憧れている人が男の子だった。それだけのことだ。 昔、父さんの仕事仲間の息子で連れてきた僕とそう歳の変わらない男の子に憧れていた。彼はやんちゃで、でも優しくて気配りの出来る子だ。 ご近所ということもあって彼とは良く遊ぶ機会が多かった。 僕は彼に憧れていた。 恋とかじゃなくてただ彼に憧れていた。飄々とした性格は憎めない、たくさん友達が居て、勉強もそれなりに出来る。 憧れているというよりはもしかしたら羨ましいかったのかもしれない。 彼は今も一緒にいてくれる。 金髪に青い目。どちらかと言えば真面目そうな印象よりも軽そうな印象を初対面の人に与えてしまいがちの外見は気にならない。中身は外見を裏切るほどに真面目な好青年だ。 「アイチ、お前も中三だろ? もうそろそろ女の子の格好したらどうだ?」 「嫌です、今更」 「別にいいと思うけどな」 彼、三和タイシはそう心配してくれる。僕の趣味で始めたことは今や止められない問題だった。男の子として生きてきたせいか、急に女の子の姿に戻るのはあまりに勇気がいることであった。 「だから、僕高校からは全寮制の女学院に通うことになった」 「マジかよ、暫く会えねぇじゃん」 「うん」 風に揺れるマフラーの隙間からひっそりと冷たい風が侵入してくる。吐息は白く、鼻の頭は微かに赤い。 彼は一つ上の高校生で僕は中学生であり受験生だが推薦入試ですでに入学は決まっていた。だから暫く会えなくなることも決まっていた。 「一生会えなくなる訳じゃねぇだろ? そんな顔すんな」 「だって三和君とも毎日会えない」 小さい頃憧れていた彼にいつの間にか惹かれていた。それに気付いたのはつい最近のことである。 三和君は多分僕の気持ちに気付いていないだろう。それに打ち明けたくなかった、打ち明けてしまえばもう元のような関係に戻れなくなるのを僕は知っていた。 「大丈夫だよ、俺はお前をずっと待ってるぜ」 「……?」 「アイチが会えないとこにいても俺はお前が帰ってくるのずっと待ってる、毎日電話だってなんだってしてやるよ」 「そんな、いいよ! 三和君は素敵な人だし……すぐに彼女さんだって出来るよ」 頭の中はめちゃくちゃで自分でも言っている意味はよくわからない。誰が彼氏や彼女の話をしたというのだ、アイチはさらにうなだれて三和の顔さえ見ることは出来なくなった。 マフラーに極力顔を埋めて自分の頬が寒さ関係なく赤くなってるのを悟られないようにした。 彼がどんな顔で自分を見ているのかなんて想像したくなかった。 「安心しろよ、何だか分かんねーけどアイチ置いてどっか行ったりしねーよ」 「え……?」 「大丈夫だってそういう意味でもお前を待ってる、そして迎えに行く」 意味がわからないよ、そういう意味ってどうゆう意味なのか。 三和君を見ると彼は首を傾げる僕を見て困った顔をする。仕舞いには頭を掻いて顔を赤らめた。 「三和君?」 「お前って大事なところでおバカさんだよな」 「なんでバカなの?」 「あーー、察してくれ! 二度言うのは流石に恥ずかしい」 本当に鈍感だな、とかぼやく三和君は耳まで真っ赤にしている。 僕は呆然として三和君を見つめていると、彼は僕を引き寄せて包容した。あまりに一瞬の出来事に情報の処理は全くもって追い付かない。身体が一瞬で凍らされたかのように動きは鈍く、目を見開いたまま言葉を吐き出せない口をただ動かしていた。 「つまりこうゆうこと、わかったか?」 「あ、えっと……あの……」 顔を赤らめたままいたずらっ子のように笑う彼は僕を見る。一方の僕は全くよく分からない、むしろ更に混乱してしまった。 「俺はアイチが立派な乙女になって帰ってくるの、待ってるから……そんでさ…!」 続けて三和君は何か言い掛けるもその言葉を飲み込んで、その後は何も無かったかのようにまた歩きだした。 ただ違うのは二人の頬は尋常でなく赤いと言うことだけだ。 三和もアイチも考えることは一緒だった。 明日からどんな顔で会おう……、そんなことが頭に過っていた。 |