お前だけを抱き締めた





※本番はありませんが、それらしい表現があるので注意






「ッ……………」


アイチがやっと目を覚ました。
真っ暗で目が慣れていないらしく何も見えない。だが自分の手足が縄か何かで縛られていることに気付いて、激しく動揺し暴れたりするも一般の男子より筋力のない非力なアイチにどうにかできるわけがなかった。
目が慣れてきた頃、目の前に櫂がいることに気付きアイチは動揺して声が僅かしか出ない口を開く。


「ね……ねぇ、櫂君? 見てないで助けて…?」


この場には櫂とアイチしかいない。だからアイチは何も拘束されていない櫂に助けを求める。
しかし櫂は狼狽えるアイチを傍観するだけで助けようとするようなアクションはおろか、その場から動かない。そうする訳がなかった、櫂がそうしたからだ。

この頃、ミサキやカムイによく笑う。三和や店長によく甘える……。

櫂は自分以外の人間とアイチが話していると嫌悪感や嫉妬が湧いてくる。なんとも汚れた心を持ってると自分で思ってもそれを止めることは出来ない。どちらかと言えば引き返せない、その方が正しいかもしれない。櫂はいつも通りの無表情を浮かべてアイチに覆い被る。


「お前が、俺以外の人間に笑ったりするからだ………」

「え……?」

「俺が好きなら俺だけを見ていればいい」


自惚れかもしれない。そう思いながら櫂はアイチを見下ろす。アイチは今にも泣きそうな瞳で櫂を捉える。なんとも哀れみに満ちた不安気な顔をしている。
こんな顔をさせたいが為にアイチをこうさせたのかと言えば違う、と断言できたのは昔の話だ。
櫂の家を誰も知らない。アイチがどんなに大声を上げようと誰にも感付かれない自信があった。

ソファーに横たわらせたアイチに柄に無く縋るように抱き付く。アイチは櫂の胸板に顔を埋めた。

そんな同情は櫂にはいらなかった。櫂が本当に欲しいものは目の前に触って掴める距離にある。しかし実際は遥か遠くに存在するものだ。こんなことをして手に入るとは思っていない、しかし今その場にあるもので繋ぎ止めようとする。

櫂はただ唇を重ねた。
それは櫂らしからぬ、今の行為に不釣り合いなほど優しいもの、壊れものでも扱うかのようである。
不意のあまり頭の回転が遅れているアイチは手足を縛られているから十分な抵抗は出来ない。もがくように櫂から逃げようとするもアイチが年上の腕力に適うはずもなく、また無防備に唇を重ねる。優しい筈なのに乱暴なその口付けにアイチは心さえ痛くなる。


「………………アイチ」


アイチは顔を赤らめて櫂から目線を外そうとしない。その目は明らかに恥じらいや嬉しさからのものではない、これからなにをされるか不安で怯えきっている目だ。
どうも煮え切らない櫂はアイチの上に馬乗りする。


「嫌だ…よ、………櫂くん……」

アイチの頬に何筋もの涙が流れていく。皮肉にもその涙は自分では拭うことは出来ない、声を殺していることしか叶わないのだ。
アイチがその気にならないのならその気になるまで汚してしまえばいい。そんな歪んだ愛情しか今は頭をよぎらない。全ての支配権は自分にあると言う優越感。アイチは逆らうことは出来ない。


「アイチ………」


ただ自分の手の内に治めておきたいほどの愛しさと自分以外を映す嫉妬に溢れているだけだ。


「櫂くん………やめて…」


アイチはついには泣きながら、歪みきった声音そう訴えるがそんな藻掻いく姿も愛しく感じて話に耳を傾けている暇などない。
気付けば彼の衣服を手際よく脱がし、もう我慢できないと言わんばかりに主張していた自身をアイチに無理矢理しゃぶらせる。
なんという優越感なのだろう、アイチは嫌がりながらも目を涙で濡らしながら櫂のものを舐めていた。







何もない無機質な部屋に響くのはアイチの呼吸だけだ。アイチは脚は痙攣を起こし、首や胸には沢山の赤い跡を残して、おまけにアイチの身体はべったりとした体液に塗れている。すべてが終わったばかりだということがすぐに理解できるほどの有様だ。
アイチの衣服はもはや好き放題に荒らされて所々に裂け目が入っている。あまりに酷すぎるもので外は当然歩けるような服装ではない。

気を失いそうな細い意識を必死に保とうとするアイチをもう一度ソファーに寝かせてシャツ一枚を羽織った櫂は床に腰を下ろした。
アイチはゆっくりと唇を動かした。


「櫂、くん……ぼ、く……櫂くんのこと、すき………だよ?それじゃ、だめなの?」

「だめだ………それだけじゃ、足りない………」


何処か遠くを見るアイチの顔を自分の方に向かせ、今度は今までとは打って変わって優しく口付けをした。

アイチを自分のものにしたい……、そんな欲求しか頭にない、なによりアイチが自分の隣に居ればなんでもいい。
再び出会って気付いたのはアイチなんかよりも自分の方が相手に固執し、酔っていたということだ。









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こんな櫂君もいたっていいと思うんだ


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