始まりの日曜日 ※櫂君のキャラがおかしい 「ふっ……ふつつか者ですがどうかよろしくお願いします!」 そう言って深々と先導アイチは頭を下げた。両手にはキャリーバッグやら旅行用の細い身体に釣り合わないほど大きなバッグを抱えていた。 緊張しているのか頬はほんのり紅に染まっている。 自室のインターホンがどうも遠慮がちになるものだから櫂はけだるそうに玄関のドアを開けると先導アイチは立っていた。 元々櫂がアイチに「家に来い」と言ったのだからアイチがここにいるのは想定内である。むしろ誘ったはずなのにいつまで経っても来ないとすれば櫂は少なからず気に掛けるだろう。 「何だ、その大荷物は……うちに住む気か」 「でも7日もお世話になるんだからこれくらい必要だよ」 「俺はお前に部屋を貸すだけだ」 とりあえず入れ、邪魔だ、と促しアイチの持つずっしりと重そうな荷物を自室に入れ込んだ。 一人で使うには広すぎたマンションに荷物が導入されたことにより狭くなった気がして仕方ない。アイチは落ち着かない様子で周りを見渡しているだけだ。 どうしてこうなったか、その原因はアイチの妹ことエミにある。 学校の行事の一環で一週間の親子合同キャンプをやるらしい。アイチの母はアイチにも行くことを促すものの流石にお嬢様学校の小学生に紛れるのは嫌だと言い家に残ることにしたと言う。 アイチがカードキャピタルでふと思い立ったようにその話をするとシンとミサキは家に来るように誘い掛けてくれたものの、しかしその後揃いに揃ってみんなでアイチを家に泊まりに来るように誘っているのを見兼ねて櫂が名乗り出たのだ。 「ありがとうね、今日は」 「大したことじゃない」 慣れない環境からかいつも以上に大人しく、本来寛ぐ為にあるソファーには固くなって正座していた。 一応座らせたものの櫂も三和ほどリードは上手くない、むしろ不器用の部類に入るだろう。次のアクションをどうして良いか分からない。 「あの、これお土産……」 「………」 「母さんがどうしても持っていけって……、櫂君甘いの平気?」 アイチが重たそうなバッグの中から何かを発掘したと思えば櫂の前にカステラを置いた。二人で食べるには有り余るいわゆるファミリーサイズのその箱は恐らくアイチの母がアイチの友達ご家族一同にと意味合いが込められているのだろう。 答えを待つアイチの円らな瞳が櫂の良心を刺した。 「食べようと思えば食べられる、有り難くもらっておく」 するとアイチはいつも通りの花が咲きそうな笑顔になる。 櫂はそれを一瞥して、何も入っていないに等しい冷蔵庫に入れた。 櫂はため息をついた。 勢いとは言え、アイチが7日間も家にいることの理性の抑制。自分のペースを容赦なく乱してくる。 明日からまた学校だ。 弁当を二人分作らなきゃいけないし、朝食前にアイチを起こさなくてはいけないし、合鍵を渡さなくてはいけない。 生憎アイチは携帯を持ってはいない。 通っている学校も違うし、帰る時間も違う。 不安要素は幾らでも浮上してくる。 「あ」 「………どうしたの…?」 とりあえずお茶くらいは出そうと思いコップを二つ分取り出した時にとある重要視しなければいけないことを思い出した。 櫂の言葉を聞き逃さなかったアイチはすぐに質問する。 櫂は一人暮らしの真っ最中で客人を入れたことも無ければ、泊まらせたことも無い。 今更ながら布団が一式分しかないことに気付いてしまった。 |