出来心と事故 ※notにょた 「………すまなかった」 カードキャピタルに響いたのは櫂の謝罪だった。それを聞いたらとりあえず櫂トシキを知る人物は振り向くだろう。明日は槍が降るかもしれない、という一心で見つめるしかない。 「大丈夫だよ、大したことないから」 何か被害を受けたらしいアイチは本気で謝罪してくる櫂に困りながら対応していた。 未だ罪悪感に捕われている櫂の顔はあまりにレアかもしれない、三和は携帯のカメラで撮ってやろうと笑いを堪えながら思っていることだろう。しかし今の状況で携帯のシャッター音を鳴らすのはかなり勇気がいる。試されていた。 慌ただしい様子でカードキャピタルから出ていった櫂は誰の目にも止まっただろう。 「アンタ、何したの?」 「えっ、違うんです! 不慮の事故なんです」 「櫂がどうやったらああなるんだか是非ともご教授願いたいねぇ!」 櫂の背中を追おうとしたアイチをひっ捕まえたのはミサキと三和である。好奇のまなざしをぎらぎら向ける二人に詰め寄られるアイチは店長代理でさえ見つめることしかできない。ああ、あの二人に捕まえられたのか、可哀相に。との周囲は思う一方櫂がどうしてあんな風になったのか気になっている顔だ。 「あれは災難だったぜ、アイチお兄さんが可哀相だ」 「カムイ君、あれは違うんだよ」 「何があったのよ、説明しな」 好奇心とは全くもって恐ろしい、そう思って笑うしかないように今の光景を見た店長は思う。仲裁してあげたいと思うもののぎらぎら光った目に流石に怯んで断念していた。 ミサキは今にもカムイに掴み掛からんとの勢いである。傍から見てみれば明らかに高校生にいじめらる小学生の図が出来上がっている。 「櫂の野郎が…アイチお兄さんの胸を揉んだんだよ!」 「揉まれたって別に平気って言ってるのに………、みんなで騒ぎ立てちゃうから」 何か会話に異変を感じた三和は左右を見回した。しかし周りはそりゃないわ、なんて言っている。 カムイの話によるとこうだ。 どうも櫂とアイチでカードキャピタルに行く途中に、アイチをからかってやろうと森川は思ったのだろう。アイチに捨て身タックルをしたらしい。しかしアイチを狙ったはずの森川のタックルは櫂の背中にヒットした。 不意にタックルされればいくら櫂でも関係無く、アイチを巻き込んで倒れたらしい。 ここで本来ならば転んだ拍子にキス、的展開だったろうに。 しかし実際そうはならないらしい、実際は櫂の手はアイチのいわゆるバストを触っていた。 不運にもそこに現れたクソガキさんことカムイにより、二人の甘酸っぱいようなラブコメ的空気は消え失せるのであった。ラッキースケベと呼ぶべきか不憫だと慰めてやるべきかわからない。 「ダメだよ、もっとアンタは自覚持たないと………、それにしても胸を揉むなんて良い度胸してんじゃん、アイツ」 「だよな! ミサキさんもそう思うよな!」 ミサキとカムイはどうやら意気投合してしまったらしい。今ここにある意味最強の連合軍が誕生したのは、世にもめでたい話であるがどうも話の展開は三和の遥か先を行ってしまっている。 「大丈夫だよ、僕胸無いし」 屈託のない笑顔を向けるアイチの返答はやはりおかしい。三和はアイチの性別を問おうか、迷うしかない。しかし取り巻きがある意味恐ろしく、喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。 「そうだ、今後海行く時の水着、一緒に買いにいかない? エミちゃんも一緒にさ」 「ええ、良いんですか?」 とりあえず話の流れに乗れなくなった三和は櫂を追い掛けて、アイチの性別を聞こうと立ち上がるのであった。 世はなんとも不思議だ。 |