悶々として、君 ※アニメ寄りなレンアイ 「暇そうですね」 公園のベンチでうとうと日の光を浴びていたアイチは不意に掛けられた声に覚醒した。 そっと振り向くがそこには誰もいなかった。 あったのはいつも通りの柵に囲まれた庭園があるだけで人はいない。 「あなたは本当に鈍臭いですね、先導アイチ君」 ほっと一息して視線を前に戻すと雀ヶ森レンがアイチの顔を覗き込んでいた。 アイチはあまりに驚いて思わず叫びそうになったがなんとか飲み込んでレンを見た。彼はあまりに驚いた顔をするアイチに首を傾げた。 無気力そうな仕草をしながらアイチの横に腰掛けたと思いきや、いきなりアイチの前に缶ジュースを突き出し「飲む?」と言った。 「何味ですか?」 「マンゴー」 「いただきます」 「どうぞ」 ちらりとパッケージを見てみると確かにでかでかと分かりやすくマンゴーの写真がある。少しだけ生ぬるい缶を受け取ってゆっくりと口をつけた。 ああ、何やってるのか。 とかアイチは頭の中でぐるぐる頭を巡らせ考えている。雀ヶ森レンとはこの前少しだけ出くわしただけで会話など数えるほどだけ。 そんな彼が初対面同然のアイチにジュースを分け与えるのはおかしいことではないが謎でならない。 「美味しかったですか?」 「あ、はい」 「それは良かった…」 何だかペースが掴めない会話、と思いつつレンに飲みかけのマンゴージュースを渡すと彼は戸惑いもせず即座にジュースを口に運んだ。 「そういえば間接キスですね、変な意味じゃなくて…」 「なんですか? アイチ君は直にされたい派で?」 あまりに予想外なコメントに再び驚く。 公園内は小さな子供や親子連れであふれかえていて平凡だと言うのに自分の身の回りには緊迫感が走っている。まるでヴァンガードしてるようなあの感覚。 嫌な予感しかしないと思いながら距離を置こうとするとレンはアイチの肩を掴みそれさえも許してはくれない。せめてと思い視線を反らすも無駄らしい。 まじまじとレンの顔を見てつい綺麗な顔してるな、とか余計なことまで考えてしまう自分がいる。 「な…な、何でしょうか?」 「いや、直にして欲しいのかと思いまして」 「思ってませんから」 「じゃあその物欲しそうな顔をやめてください」 「してません」 「じゃあ誘うのやめてください、襲いますよ」 「誘ってません」 汗が流れるのが分かるほど自分の身体が冷たく感じる頃にはだいぶ手遅れである。危険信号が今頃になって起動していた。 ただあの人みたいな不敵な笑みを浮かべていた。ああ、だめ子供が見てるよ。と思いながらただ回避できないアクシデントに目を堅く閉ざした。 まるでキス待ち顔みたいだよ、と思いながらそっと目を開けると色んな意味を含んで不気味な笑顔がそこにある。 いきなり身体が軽くなったと思いきやレンに担がれていた。見ていた子供は「パパ、あれやって」とこちらを指差していた。 レンはマンゴージュースを一気に飲み干してから近くのゴミ捨て籠に投げた。すると缶は吸い込まれるようにゴミ捨て籠に入った。 「………あの、レンさん…下ろしてください」 「嫌です、アイチ君逃げるでしょう」 「逃げませんから、そして僕は何処に連れていかれるんですか?」 「楽しいところです」 「例えば…?」 「…………………」 どうして黙っちゃうの…。 アイチは涙を無駄に流せる気がした。中学生の脳内で「危なさ」を感じるところと言えば不良たむろうゲームセンターがマックスである。 雀ヶ森レンと言う人物をせめてもっと知っていればこれからどうなるかも少しは把握できるかもしれない。 しかしアイチは彼がヴァンガードのチャンピオンと言う情報くらいしか知らない。 「気分が変わりました」 「……え?」 「アイチ君に興味が湧いたので持ち帰ります」 「………ええ?」 彼はアイチを担いでいるとは思えない軽やかな足取りで公園を抜けた。そこに残ったのはアイチの甲高い悲鳴だけであった。 |