本能が付けた印 アイチの首筋に絆創膏が貼ってあった。 ベタに分かりやすく特大サイズの絆創膏がアイチの首筋から見える。きっと制服ではなく、私服なら目立たなかったことだろうが、しかし微妙な丈の襟からはやけに目立って見える。 首に絆創膏なんて十中八九、怪我ではないと世の若者達は心得ている。 それ故か中学校でアイチの首筋に話題を振る者は現れなかった。 「アイチ、怪我でもしたか?」 「……え、あぁ……うん、ちょっと…」 カードを意味もなく弄りながら櫂は横にいるアイチに目を向けてそう囁いた。 当の本人は軽く絆創膏の貼ってある首筋に触れながら一向に目をあわせようとはしない。 「痛むのか?」 「ううん! 大丈夫だよ、大丈夫だから心配しないで」 「なら外したらどうだ?」 櫂の視線は優しいものから訝しげなものへと変わる。 まるで疑いを向けるような眼差しだ。別に櫂とアイチは付き合っていない、周りからはそう認知されているが付き合ってはいない。 櫂がアイチを誰より甘やかしていることもアイチが櫂を誰より慕っていることも見ずとも分かることだ。 「外したらどうだ」 「え、いいよ……今じゃなくて」 「なぜ外したがらない」 三和の呆れる目線にも、カムイが周りの小学生に押さえ付けられながら怒り狂う姿も、ミサキの苛つきをこらえる姿もどうやら櫂にはお構い無しらしい。 赤らめるアイチはやはり絆創膏を手で押さえる動作しかしない。 目を細める櫂はアイチを捕らえて問答する気らしい、店の外に「ちょっと来い」と一言呟き、アイチを引きずり出ていった。 「あいつ、昨日のこと覚えてない……みたいだな……」 三和は溜め込んだ息を吐いてただそう呟いた。 「可憐なアイチお兄さんにあんなことをしておきながらぁああ」 「シンさんのせいじゃない? 元は」 カムイが怒りの熱気で手元のカードを燃やす勢いで憤慨する。それを見るミサキもため息をしながら新田店長に話を振ると、彼は肩をびくつかせている。 「店長でしょう……、まぁ間違いは誰にもあるんですよ、はい」 「でも酒出しちゃダメだろ」 「わかってたら出しませんよ」 「まずここは喫茶店でもバーでもないから」 昨日はやたら暑い日だった。 初夏でもないのに猛暑日にカードキャピタルは意外に人は少ない。 その理由としてはただ完備している冷房が点検期間で使えないため、店は蒸れるような暑さであった。 結局、集まったのはいつものメンバーであるため顔も馴染みがあるため飲料水を差し入れたという訳だが、櫂に注いだ飲料水はシンが親戚からもらった酒だったと言う。 匂いで気付かなかったのは暑さで五感がやられていたせいだと信じたい。 櫂も飲んだ直後は嫌な顔をしていたが、徐々に顔は紅潮し、アイチにもたれかかったりしていた。 彼は酒を飲むと甘え出す。 アイチに抱き付いたり、顔を埋めたりしていた。 それ以外の暴走は見せなかったが、いきなりアイチが嬌声らしきものを上げたと思いきや首筋には絆創膏を貼る理由とも言える原因が明白に浮き出ていた。 昨日のことを綺麗さっぱり忘れている櫂にはアイチが浮気しているように見えたのだろう。 だが浮気、と言っても断じて付き合ってはいない。 だが櫂はアイチが自分以外に良い寄せられたりされるのがどうも気に食わないらしい。 事件の真相を知る者達はまたため息をつく。 そして心からアイチが無事であることを祈るしかない。 後日見たアイチの首筋には絆創膏が貼られていた。 一枚なら言い訳は可能だろうに、しかし彼の首筋にはペタペタ数ヶ所に貼られていた。その姿はある意味でホラーである。 だがアイチがあの後何されたかが浮き彫られている。 とりあえず事件の真相を知る者達はアイチを労ってか腰を擦って、椅子のあるところまで背中を押してやった。 |