ハッピーバッドエンド 森アイと見せ掛けた アイチ総受け 世界最強とうたわれし森川は戸惑っている。 すべては目の前で目蓋を腫らして泣き崩れる……とまでは行かないがとにかくわんわん泣いている彼の友人、先導アイチに原因がある。 アイチは控えめで遠慮がちでとにかく断ると言うことを知らないお人好しとも言える。 そんなお人好しは女子から顔を買われたらしく、文化祭でありがちなメイドカフェでそのメインとも言えるメイド役を受け持つことになっていた。 女子達に連行された挙げ句身ぐるみを剥がされ、手早く着替えさせられたらしい。 らしい、というのはそのアイチのお着替え時は学校で男子と分別される奴等は全て教室の外に放置されたからだ。たかが女顔であって身体は正真正銘していいのか分からないが男の、しかも友達の着替えで何故外に放置されたのかは謎でならない。 しかし教室の中から聞こえてくる悲鳴(アイチの)でつい好奇心か、それともそれ以外の何かで覗きを働いた男子はクラスでも腕っぷしの強い女子に制裁と言う名の暴力を受けていた。 数分が経過し、やっと我が教室に入ることを許可されて中に入れば男子が歓声を上げるほど女装が似合う奴がいた。 そいつは短いメイド服をなんとかしようとしているのか、ずっとスカートを押さえて下に引っ張るような仕草をしていた。 それに加えて白いニーソックスが伸びる足は運動を全くしていないに等しいほど筋肉はなく棒のように細い。 「あ、あんまり見ないで……」 控えめに、それでいて泣き声のような悲鳴でアイチはしゃがみこんだ。 その姿はまさに性別は謎でならない、この際どっちでも構わない。 「まさかここまで似合うとはね、サプライズ以上よ」 女子の一人はそう言った。 男子からしてみればこの状況はご褒美にしてサプライズだろう、一瞬だけあの先導アイチかどうかゲシュタルト崩壊する。 まるで小動物の如く震え縮こまる背中はあまりに不憫さを物語っていた。 カードファイトしてる時のあの先導アイチは不在らしい。 文化祭の出し物はアイチ本人の了承無しに実行されるらしい、アイチ自身、断るとか拒否を重要な時に使わないから大した変動はないだろう。 「森川くん……」 「なんだよ」 薄暗い教室には二人しかいない。 というのはクラスの奴等はまるで何かを予知したかのように綺麗に、且迅速に帰宅していった。 流石にメイド姿で帰れないアイチは制服に着替えるという義務があった。 アイチがいざ着替え始めると直視してはいけないと言う謎の配慮の元、森川はアイチに背中を向ける。 「僕、これ似合ってたかな…?」 変な事を聞いてきた彼についすっとんきょうな声を上げた。 つい振り返ってアイチを見ると余りに官能的であった。 メイド服から肩や背中が覗いていた。 月明かりに照らされ効果でさらに妖しさを放っていた。 「ば…バカなこと聞くんじゃねぇ……って!」 「ちょ、森川くん!」 アイチに近づいた森川は暗がりで見えなかったこともあるのか、足元の障害物につまづき、アイチに突進するような形で転びそうになった。 また森川が目を開いた時にはアイチのか細い手を掴んで、壁に追い詰める、そんな形に成立していた。 なんて美味しいイベントにして、最高のチャンスなのだろうか。 頭の中は思春期の中学生らしい、適度に卑猥なアイチの姿しかない。 そんな妄想を繰り広げていたら、いきなり周りが眩しくなった。決して森川が自分の世界に閉じこもったからではない。 教室の電気は何者かによってスイッチをオンにされた。 「おーおーおー、やるねぇ……コスチュームプレイってやつ? マケミ君」 自分をこのみっともないあだ名で呼ぶのはあまりいない、嫌な予感に脂汗を流しながら振り返れば、予想通りの人物、三和が立っていた。 それだけならいいだろうが、問題は彼のサイドにいる人物だ。 まるで怒れる龍の如く静かに、それでいて迫力のある睨みをつけてくる櫂と冷ややかでいて何も言わずに立つミサキ。 「なっ、何でここに!」 まるで悪者が吐きそうな台詞を咄嗟に口走った。 今この状態、森川がアイチにメイド服をコスプレさせた挙げ句、壁に追い込んで今にも襲いそうな画をどうあがいても弁解できないだろう。 「アンタ、最悪だわ………、ほらこっち来な、もう大丈夫だから」 アイチはミサキが手を伸ばす先に走って行ってしまった。 まるで悪者に助けられた姫の如く高校生達にちやほやされていた。 「つか何でいんだよ、中学校だぞ」 「マケミ君、俺はこの学校の卒業生だったりするんだよ、入りたかったら自由に入れるさ」 「覚悟は出来てるんだろうな」 三和が明るくウィンクする横で明らかにグーを構える櫂がいた。 アイチに助けを求めたいがミサキの腕のなかに保護されていて無駄だろう。 学校には狼、いや犬の遠吠えのような悲鳴が聞こえたらしい。 |