女神のお兄さんがこんなに可愛い訳がない 「何かな、カムイ君……?」 アイチはカムイにそう言うと彼は我に返ったようにぴくりと動きを見せてから、動揺しているのか顔を赤らめた。 本人さえ無意識だったらしい。 彼の向かいに座るアイチは首を傾げて、狼狽えるカムイを見ていた。 「なななんでもないですよ、お兄さん!」 「なら良いんだけど…」 「それより、続きやりましょうよ」 「うん、そうだね」 彼らはあくまでカードファイト中である。 手札をどうすることもせずただアイチの顔を凝視していたのに声を掛けると彼は不自然な対応をしてきたのだ。 「こ、今度一緒に他のショップなんか……行きませんか?」 「いいね、たまには違うショップ行くのも」 カードファイト後、結局カムイが勝利を治めた。アイチは負けを認めてカムイにいつも通り笑みを浮かべる。 カードキャピタル以外のショップへ誘ったのはアイチにもっと強くなって欲しいという、純粋な気持ちもあるがやはり二人きりになれる他にアイチの普段見れない姿さえも覗けるんじゃないか、と勝手に頭の中で思い描いたイメージを浮かべていた。 「他のショップに行くなら、もっと強くならなくちゃね」 「そうですよ!」 「カムイ君、デッキ見てもらってもいいかな?」 「お安い御用ですよ!」 向かいに座るアイチから手渡されたカードの束を壊れ物を扱うような手つきで触りながら、懸命にカードを見合せていた。 何分経ったか分からないがとにかく長い時が流れているように感じる。 「お兄さん、あのですね……」 カムイが顔を上げると、当のアイチは頬づえをしながら眠りについていた。 ついつい見惚れてしまう寝顔はあまりに綺麗でどうも顔に熱を感じてしまう。見惚れて固まって、頭の中でどうゆう行動をすれば良いかさえも分からなくなってしまう。 「お兄さん………」 周りを一瞥する。 今日はカムイの宿敵の櫂やアイチの顔を知る者達はいない。まして他の客達はカードゲームに夢中でこちらに目配りしている暇はないだろう。 カムイは生唾を飲んでアイチを見た。 小学生のカムイでさえ、今が絶好の好機であると分かる、どうしたら良いか分からない。しかし好機であることは良く分かる。 アイチの頬に手を伸ばせば触れた手から頬の感触が良く伝わってくる。 顔を近付ければ長い睫毛が特徴的で男らしくない色白さに目を引く。額同士が付きそうな距離、カムイは不意にアイチの唇に目を奪われた。櫂にも三和にも触れられていないであろう。 カムイは好奇心からアイチに口付けしようとした時だ。 「いやー、青春ですねぇ」 「なっ、何だよ!」 いきなり掛けられたカードキャピタルの店長からの声で好機は崩れ去ったのである。 「ミサキー、毛布もってきてー」 「ここは昼寝する場所じゃないんだけど……」 「そう言わずに、良いじゃないですか」 「本当にシンさんはこの子に甘いよね」 ミサキは手際良く、裏から厚手の毛布を持って来てアイチに軽くかける。 そしてから手元にある携帯でアイチの顔を撮った後、携帯を弄りながら元居た場所に何も無かったように戻っていった。 「カムイ君、抜け駆けすると櫂君が怒りますよ?」 「櫂の野郎がお兄さんをちゃんと見てないのが悪いんだろ」 ふてくされた態度で新田を睨むが彼は笑顔を絶やさずにいる。 カムイはお兄さんが可愛すぎるのが悪い、と怒る、その向かいで眠るアイチは幸せそうな顔だった。 |