「それは大変だったね」
「他人事みたいに言うなよ」
「確かに他人事じゃないけど、噂なんて言わせとけばいいんだよ」
豪炎寺は吹雪を見てただぽかんとしていた。吹雪はそんな視線をもろともせずに軽くつまめるようなクッキーをポリポリと食べていた。
「それさ、僕の家まで来て言うことかな?」
「俺と吹雪が付き合っているなんて噂が居ても立ってもいられないだろう!」
吹雪は軽くふーん、と言い流してまたクッキーに手をつける、そしてどこか嬉しそうに話してくる彼をじっと見据えた。
どこからの風の噂かは知らないが今女子の間で豪炎寺と吹雪というファンクラブさえ存在するほど名高い二人が付き合っている、なんてでたらめな情報が雷門中を蔓延していた。
確かに同じ部活に同じクラス、一緒に居ることは多く、家にだって普通に出入りするような仲である。
普通の解釈でいくならば二人の関係は『良き親友』の筈だった。
しかし何処の誰だか知らないがとにかく歪んだ考えを持つ者は二人の関係『恋人』に仕立て上げていたのである。
女子だけの噂ならばそれでも良かったが、あろう事か先程の通り本人の耳に入るほど噂は広まり、サッカー部でも知ってる者はいた。
「……で、何? これを期に俺と恋人になろうなんてふざけたこと……まさか言わないよね?」
「……………俺の本心読んだだろ?」
「読んでないよ……」
豪炎寺と吹雪は一枚のテーブルを挟んで黙り込んだ。
吹雪は落ち着かないあまり指を弄り出していた。豪炎寺はぼんやりとそんな吹雪を見ていた。
「で、話は終わりでしょ? だからどうしたのっていうか……」
「ただ言っておきたかっただけだ」
「でしょ? もう夜遅いし、帰らないと色々大変だよ?」
「案ずるな、泊まるつもりでここに来た」
「はぁあああ?」
吹雪は思わず変な声を出した。
やたら自信満々そうな豪炎寺の顔に呆れ果てるほどだ。
夢中になって話をしていたが気付けば時計は九時をまわり、中学生が外にいれば補導されそうな時間帯である。
「噂をもっと広めたくないか?」
「何言ってるの? もっと大変になるでしょ?」
「俺は周りにそう思われた方がやりやすいからな」
「やりやすいって何を!」
豪炎寺は不敵な笑みを浮かべる。
吹雪は知っている、試合以外で豪炎寺がこうやって笑みを浮かべる時はろくなことは起きないと。
「朝帰りした方が注目されるだろ?」
「意味分かんない!」
エゴイストな彼と噂
意味不明な話になってしまった……