少なからずとも彼は真面目だ。
授業はちゃんと出席するし、居眠りなんかまずしない、おまけにノートのまとめ具合は授業を受けていると一目で分かるほど綺麗だ。

制服を自分好みに着崩すことはなく、休み時間は静かに自分の机について黙々と読書している。

そんな彼には『文学少年』と言うにはふさわしいであろう、勤勉と日頃の態度はクラスメイトからも教師達からも高評価である。


そのようなイメージを貼り付けられた彼はスポーツも得意で欠点など無い完璧な人間である。



しかし彼は五限目を知らせる予鈴がなっているにも関わらず、屋上の一角でずっと横になっている。
もし、彼ではなく円堂や綱海ならば違和感は無いだろう、だがしかし真面目な彼がこうして横になっているのを見るとどうしても違和感があるように見える。


「ヒロト君、予鈴なったよ……」

「うん…、そうだね」


あっさりとした答えについ拍子抜けしてしまった。
彼はまるで他人事のようにそう軽く受け流した、何処かもどかしさを感じる。


「何? 吹雪君もサボり?」

「"も"って……サボるつもり?」

「ああ、たまにはね………、吹雪君、共犯になるかい」


思わず返答に困り、口籠もると彼は軽く微笑んで吹雪の腕を引き寄せた。
勿論不意だったこともあり、彼に引き寄せられるがままに平たい胸に飛び込んでしまった。


「僕は……君とは違うよ、授業はちゃんと受けるもん」

「とか言いつつ、いつも五限目は寝てるじゃないか」


吹雪は睡魔に弱い。
昼間に食べたお弁当と丁度いい気温と日光は眠気を誘うには十分で少しでも机に顔を伏せてしまえば眠りに落ちるのは案外早い。

ヒロトにはお見通しらしく、見透かされたような笑みをこぼしている。


「隠さなくても分かるよ、ほら、今なら腕枕してあげるよ吹雪君」

「だから授業出るってば」

「とか言って、もう五限目始まってるんだよ?」

「保健室行くもん」

「結局サボりじゃん」


ヒロトに口先では勝てないことに気付き、今やっと逃げ場がないことに気付いた。

幸か不幸か屋上は二人の姿しかない、ヒロトは吹雪を胸に抱えたまま寝転がっても目撃者がいないのは幸いであった。


「こ、こうゆうことは……女の子にするんだよ」

「いいじゃないか、顔真っ赤だよ?」


ヒロトに言われて、吹雪は顔に湯気が立ちそうなほど熱くなり、ついヒロトの平たい胸に顔を埋めると彼の少しだけ早い鼓動が微かに聞こえる。


「赤くないよ」

「赤いよ、頬っぺた熱いよ? 熱でもあるの?」

「君っていやらしいよね」

「そうかな?」


その会話以降、意識は遠退き気が付けば目蓋は閉じていた。

起きてみれば空を染め上げていた蒼穹はいつのまにか燃えるような橙色が空を覆っている、目を擦ってから未だ気持ち良さそうに眠りにつくヒロトを見た。

いつもの強ばったような冷静で大人のような顔だちではなく、ただの少年の顔があった。

後でネタとして、なんて言う軽い気持ちで携帯を胸の内ポケットから取り出し、ヒロトの寝顔をぱしゃり、と撮影したのだった。





結局は彼も真面目ではなかったのだ。
だがしかし、彼の顔が利いたのかはたまた圧力か……、ただの注意一言で終わる呆気なさはつい怒鳴られることに腹を括っていた吹雪としては妙な心境である。


相変わらず彼は制服をきっちり規定通り着こなして、やはり黙々と自分の机で本を嗜んでいた、ただページをめくり続けるだけの機械的動きはまさに文学少年。

だがしかし吹雪は携帯の画面の中にいる本当のヒロトとのギャップを想像するとつい笑ってしまうのだった。








退屈な授業を抜け出して





今は屋上に入れない学校が多いようで、授業はしっかり受けましょう
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