FFIが終わってもういくらか時は経つ。
プチプチと慣れない手つきで携帯画面に文字を打ち込んで行く。それはかつて愛した人へ送るものだった。
今更だ、彼はモテる方だしそれなりに人柄もいい、僕を忘れて他の人に愛を囁いても別におかしくはない。
北海道もついに雪解けが終わりふんわりとした温かな季節がやってくる。桜もやっと開花し始めて綺麗な彩りを見せている。
卒業式を控える白恋中のメンバーはどこかこの頃落ち着かないなかキャプテンでもある吹雪は上の空だ。
彼らを見ているとなんとなく自分がフィディオに恋してた時のことを思い出した。
初めてだったんだ、こんなに人を好きになれたのは…、いっぱい色んなところに連れて行ってもらったりして少しの時間でも君と過ごせたことは僕の幸福だったんだ。
でもFFIはサッカーをするための大会だから、その大会が終わればもうすることはないから各国に帰らなきゃいけない。
名残惜しく僕はもう一度だけエントランスのこの場を振り返るとやたら叫んでフィディオがやってきた、ジャージではなく私服だ。
「フィディオ…くん…?」
「士郎、どうして今日帰っちゃうこと教えてくれなかったの?」
「それは……」
さびしくなるから、なんて言えなかった。彼はみんなからの視線を気にしない様子で僕に抱き付いた。勿論僕は恥ずかしかったし、でもすごい嬉しかった。そんなに別れ際に優しくしてくれるならずっと傍に居てほしい。
身体を話した後、少し哀しそうにだが不安にさせないようないつも通りの眩しい笑顔を作って僕を見た。
「 」
飛行機の離陸する轟音は凄まじく響き渡る。そのせいかフィディオがしゃべった言葉は聞き取れなかった。
さよならって言ったの?
また会おうって言ったの?
今更聞けるはずはなく彼は走り去ってしまった。
なにさ、最後くらいもっとお話がしたかったし二人で並んで写真だって撮りたかった…、なのに彼はいつもの全力疾走で僕の前から姿を消した。
もう二度と会えないかもしれないのに……
最後に「もう恋なんてしないよ」って言いたかったのに…
引き出しに入っているどうしても捨てられないフィディオから貰ったプレゼントに一緒に星を見にいくと抜け出した夜に貸してくれた上着も……、もう見たくないよ。
どうしても彼を忘れられない自分がいて、忘れようとすると涙が出てきて苦しくて、そして実感する、やっぱり僕は君が今でも好きなんだ。
「吹雪君、外見て!」
「へ?」
「あの人ってFFIのイタリア代表の人だよな」
紺子ちゃんが少しだけ驚いたような声で僕を制すが、先に興味を持ったのは烈斗君で窓を覗いていた。
イタリア…?
まさかと思い僕はだらけた身体を起こして窓を見ると、挙動不審にしているフィディオがいる。
どうして、なんで、でも会いたい…、どんな顔されてもいいから会いたい…。
「ちょっと、吹雪君!」
溜り場とも言える教室を出ていく時に入れ替わりに入ってきた珠香ちゃんが少しだけ慌てて僕を止めようとするも今は止めないで欲しくて珠香ちゃんに「すぐ戻るから」といいながら校内を駆けて外に出る。
「フィディオ君……」
「士郎! やっと会えた!!」
僕の顔を見た途端に不安そうな顔色は消え失せて僕に抱きついてきた、懐かしい感覚に嬉しくなる。
「マモル達と同じところにいるのかと思ったら……」
「それで今日はなんの用かな?」
「そんな言い方無いだろう、士郎を迎えに来たんだ」
いつもの女子を悩殺する笑顔は眩しく、だがフィディオのいっている意味が分からない。
迎えに来た、それってまるで…
「ずっと士郎に会いたくて、淋しくって仕方なかったんだからな」
「フィディオ君……」
僕達はおんなじだったんだ、おんなじ気持ちだったんだ。
すっ、と目の前に出された手をフィディオは差し出す、きっと一緒に来てくれという合図だ。
僕はフィディオの手を握りしめ、抱き付いた。
優しい恋が好きです
桜/ロックと言う歌が良すぎてやってしまった……